エッグマン 辻仁成
評価:3
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■ヒトコト感想
居酒屋の客であったサトジが出会う人々との物語。居酒屋で見かけたマヨとの関係やマヨがバツイチとなり、シングルマザーとして子供を育てているという流れが描かれている。実はサトジは元有名ホテルのコックであり、卵料理を専門としていたということが判明する。連作短編の形で描かれている本作。サトジがマヨやその子供のウフのために卵料理を作る。ウフはサトジのことをエッグマンと呼んで親しくなる。
サトジはガツガツとした性格ではなく、自分から積極的には前に進まない、どちらかと言えば奥手なタイプという感じだ。卵料理に特化したエッグマンが様々な美味しそうな卵料理を作り周りを温かくしていく物語だ。
■ストーリー
元料理人のサトジが居酒屋で一目惚れした女性と、14年ぶりに再会する。彼女の名はマヨ。いまは離婚を経験し、一人娘のウフと二人で静かに暮らしていた。別れの理由は夫の横暴なふるまい。そのことがウフのこころの傷にもなっている。決して豊かとはいえない母娘の暮らしだが、ともに卵が好物で……。離れて暮らす父親とウフの関係、マヨの祖母が語るイタリア男性との初恋、ウフをおそう学校でのいじめ、老紳士のニューヨークでの思い出……。サトジの作る卵料理が、マヨとウフに幸せの笑みをもたらしていく。
■感想
居酒屋で目立つ夫婦がいた。その夫婦はのちに離婚し、居酒屋の常連であったサトジは離婚しシングルマザーとなったマヨのことを気にかけていた。奥手なサトジがマヨと知り合いとなりエッグマンとしてマヨとウフに料理を振舞う物語だ。
エッグマンの創る卵料理は普通の卵料理ではなくひと手間かかっているおいしそうなものだ。何を作るかと言われて、卵かけごはんだと答えるのだが、その手順は凝っている。白身と黄身を分けた状態で作るTKGは確かにおいしそうな感じだ。
サトジとマヨが常連となっている居酒屋の店主が病気で倒れる。そのタイミングでサトジが居酒屋の代理店主として居酒屋を切り盛りすることになる。もともとはホテルのコックだったので卵料理以外も当然できるのだが、自分の店を持ちたいというサトジの夢に少しだけリンクするような感じかもしれない。
店主と別れた娘の関係が描かれている。離れて暮らしていたとしても親娘であることには変わりない。そのことがウフと別れた父親との関係にもつながることになる。
サトジの性格的な問題もあるのだろう。どこか煮え切らない態度ではあるが、マヨとの関係は少しづつ進展している。明確に恋人同士となっているわけではないが、周りからは公認というような感じになっている。ウフもサトジのことをエッグマンとして認識してはいるが、父親代わりとしても認識している。
連作短編として描かれており、すべての短編でおいしそうな卵料理が登場してくる。実際に作ろうと思うとかなり手間がかかるのだが、手間暇を惜しまない人は作ってみたら良いだろう。
卵料理に特化した料理小説だ。