ドリームタイム 


 2025.5.11      中年の女性作家の価値は? 【ドリームタイム】


                     
ドリームタイム / 田口ランディ
評価:3
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■ヒトコト感想
田口ランディの短編集。相変わらずのスピリチュアルな短編が続いていく。印象的なのはアイヌのシャーマンと沖縄のヌルが対決する物語だ。沖縄の地で、お互い能力があるか確認するため相手を試す。あえて何もない場所シャーマンを連れて行って、そこで神の声を聞かせようとする。

その他には、おばあちゃんが乳がんになり、そのがんが体の表面に出てくる物語も強烈だ。がんというのは表にはでておらず内部的に影響を及ぼすものと思っていた。それが、体の表面にでてきて、肉の花を咲かせるというのは強烈なインパクトがあるのは間違いない。作者の体験というかエッセイのような短編もある。特に父親がらみの物語は、これまでの作者のエッセイで語られていた父親との関係そのままだ。

■ストーリー
中には13編の作品が収められていて、「不知火の夜」が唯一の書き下ろしで、後の12編は2003年8月~2004年7月の文學界にのったもの。タイトルの「ドリームタイム」は帯の部分にも説明がされていて、アボリジニの言葉で有ることが解る。その事を感じさせてくれるのは「ウタキの青い蝶」に出てくるシャーマンの話だろう。そして私自身なかなか哲学的な話だと感じた「ゾンビの写真」。老婆の体表に現れた癌細胞に、あなたは花なのよと、ひたすら話しかける少女の話「肉の花」。思わずどきりとする「トイレの神様」。

■感想
「シェルター」は印象的だ。世界が核戦争で終わりが近づいている。そんな時、シェルターに入れる人を選ぶとしたら誰を選ぶのか。作者の分身と思われる人物は、「中年の女性作家」が常にシェルターに入れない人物として選ばれることに愕然としていた。

自虐的な要素もあるのだろうが…。アル中の社会教師がまっさきに外れる人物であるのはわかる。未来のために女子大生や知的障害のある少女は選ばれている中で、中年女性作家だけが外されることへの不満と分析が妙に面白い。

「生け贄」も印象的だ。ある占い師に将来子供ができたら目が見えなくなる可能性がある。それを助けるためにはカメを生贄にする必要があると言われた男。その当時は結婚もしていなかったが十五年後にそのシチュエーションとなる。

男はそのことを相談し、カメを殺すかどうか迷う。それまで飼い続けたカメを生贄として差し出すのか。ここで男はカメを殺さない決断をする。。。その後、どうなるかというと…。子供の熱は下がり一安心なのだが…。カメは死んでいた。結局、男が手を下さずとも同じ結果となったという妙な気持になる物語だ。

フィクションなのかノンフィクションなのかわからない短編がある。これまで作者のエッセイ集などを読んでいると、あきらかにノンフィクションなのではないか?と思えるような短編がある。特に父親がらみの物語については印象的だ。

酒に酔って暴れるのだが、素面になるとそのことをすっかりと忘れてしまう。むちゃくちゃやっかいな存在だ。親子であるだけに、そんなやっかいな父親との縁は決して切れることはない。このどっちつかずの感覚が強烈なインパクトがある。

作者らしい短編集だ。



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