ユーチューバー 


 2023.8.24      矢崎は作者自身だ 【ユーチューバー】

                     
ユーチューバー [ 村上龍 ]
評価:2
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■ヒトコト感想
作中に登場する作家は村上龍のことなのだろうか。ユーチューバーの男と作家の出会いを描いた作品。ユーチューブの撮影やホテル内部での出会いを短編の形で描いている。ユーチューバーが世界一モテない男ということに何か意味があるのか。ユーチューブの撮影で作家が女性遍歴を語るのだが、まさに作者である村上龍の人生を説明されているように思えた。

作家は高級ホテルでセレブな生活をしている。作家として売れっ子になったからこそなのだろう。常に身近に女性がいる状態。ユーチューバー側視点と作家視点とそれぞれの短編がある。無理やり新しさを取り入れたという感じだ。ユーチューバーであることにどんな意味があるのか、最後までわからなかった。

■ストーリー
20代半ばにしてデビューをした作家・矢﨑健介、70歳になった。「世界一もてない男」を自称するユーチューバーが、矢﨑をユーチューブに誘う。承諾した矢﨑が語り出したのは、自由である人間について。自由な人間は滅多にいないのだと言った。自由であるということは、唯一の希望を生む。矢﨑は、これまで付き合った女性について話したいと言う。約半世紀の間に、登場しては、消えていった女性たち。

思い出して、涙を見せながら、語られる女性たちとの思い出。それは、今考えると、生命の源泉だった。亡くなった女性も、行方不明の女性もいた。彼女たちとの付き合いが、作品を生みだし、矢﨑健介という男を作っていたのだ。

■感想
作家・矢崎健介は村上龍のことなのだろう。20代の半ばで売れっ子作家となり、その後常に売れ続ける。ホテルでセレブな生活をしている。そんな矢崎とユーチューバーの男が出合い、ユーチューブの撮影をすることになる。

冒頭の短編ではユーチューブの撮影はものすごくこじんまりとして個人的な作業というのが表現されている。そんな場面にセレブの作家がやってくる。熱中して自分の女性遍歴をカメラの前で語る。語る内容は興味深いが、このシチュエーションにどんな意味があるのか最後までわからなかった。

世界一モテない男がユーチューバーとしてブレイクするために矢崎を利用する。大物を自分のユーチューブに登場させるために気を使う。スタイリストを用意し部屋を整える。インタビューや矢崎の会話についても何か必要以上に気を使っているようなイメージだ。

ユーチューバーの収益化がどれだけの割合かわからないが…。決して裕福ではない。矢崎との最初の出会いがセレブのホテル内部であり、そこでの会話も普通ではない。現実感がない、まるで夢の中のようなイメージかもしれない。

ユーチューバー目線の物語とは別に矢崎目線の物語がある。これこそまさに村上龍の自分語りのように感じられた。70歳になっても常に近くには年齢不詳の女性がいる。ホテルで生活し、ワインを飲み続ける。ワインのつまみはちょっとしたチーズとつまみだけ。

青いシャツを好んで着ている男。まさにこれまで村上龍のエッセイなどでイメージできた作者像そのままだ。強烈なインパクトはないのだが、ユーチューブという新しいインフラを取り込んでいるのがポイントなのだろう。

面白くはない。



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