夜がはじまるとき 


 2022.6.27      簡易トイレに閉じ込められるのは最悪だ 【夜がはじまるとき】

                     
夜がはじまるとき (文春文庫) [ スティーヴン・キング ]
評価:2.5
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■ヒトコト感想
スティーヴン・キングの短編集。強烈なのは「どんづまりの窮地」だろう。まさか簡易トイレに閉じ込められ、汚物まみれになりながら、どうにかして簡易トイレから脱出する物語だとは思わなかった。狭い場所に閉じ込められる恐怖は伝わってきた。そこが排泄物まみれのトイレというのは強烈だ。まさかプラスチックの便器のネジを外して脱出する類の苦悩がひたすら描かれているとは思わなかった。

ミステリーではなく、恐怖でもない。ある意味、死が目の前に迫ると排泄物なんてのはどうでもよくなるのだろうか。脱出後に、この事態を演出した相手に対して復讐を企てるのだが…。やけに冷静なのは、怒りが沸点を通りこしたからなのかもしれない。

■ストーリー
悲しみに暮れる彼女のもとに突如かかってきた電話の主は…愛する者への思いを静かに綴る「ニューヨーク・タイムズを特別割引価格で」、ある医師を訪れた患者が語る鬼気迫る怪異譚「N」、猫を殺せと依頼された殺し屋を襲う恐怖の物語「魔性の猫」ほか全6篇を収録した最新短篇集。

■感想
「N」は精神科医が患者の強迫性精神疾患に影響され自殺してしまう物語だ。精神科医は患者に歩み寄ることは仕事として必要だ。ただ、必要以上に入り込むことで影響を受けてしまう。明らかに近づいてはダメな患者を見ることになった精神科医。

Nが医者に対して語る言葉は、意味不明な部分が大半ではあるが、どこか整合性がありストーリーとして成り立っているように思えてくる。知らず知らずのうちにNに感化され、Nと同じような幻覚を見る。絶対に近づいてはいけない場所とわかっていても近づいてしまう恐怖がある。

「聾唖者」は、ある人物が教会で懺悔することから始まる。車を運転中の男が、あるヒッチハイカーを乗せた。言葉が話せず耳が不自由な人物だった。相手とコミュニケーションがとれない状態で、見ず知らずの人物を車に乗せるのは恐ろしい。

ただ、相手が聾唖者だというのを良いことに、愚痴をつづける運転手。まるで車の中だけ移動する懺悔室のような雰囲気すらある。妻が浮気をしているのではと思いこんだ男。結局は妻は浮気だけでなく会社の金を横領までしていた。男が愚痴りたくなるのもよくわかる。

ホラー的な要素はあるが、様々なホラーだ。よく理解できない人物に対する恐怖は定番として、密室の恐怖もある。密室の中に、排泄物が充満しているというのは、恐怖にさらに上乗せされた嫌悪感がある。猫を殺せと依頼された「魔性の猫」は、よくある化け猫風な物語ではあるが、日本の化け猫とは異なる恐怖のテイストがある。

ミステリアスな展開の結末として残酷な終わりとなるのは定番だ。本作を読んでいると、主人公が起こす行動には、すべて悪い方に行っているようにしか思えない。

キングらしい短編集だ。



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