夜が明ける 


 2023.8.5      それぞれの過酷な人生 【夜が明ける】

                     
夜が明ける [ 西加奈子 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
主人公の俺と同級生のアキを描いた作品。それぞれの人生は波乱万丈だ。普通ではないが、現実に起きた事件や出来事が引用されているので、とてつもなくリアリティがあるように感じてしまう。アキは劇団員となり俺はテレビマンとなる。どちらもとてつもなくしんどい日々を過ごしている。劇団員が過酷なのは、好きなことをやるから、という前提がある。

アキがただ自分に似た俳優の真似をするためだけに劇団に入り、身を粉にして劇団に尽くし続ける。テレビマンもそうだが、飛び込んだ世界がとんでもないとしても、そこから逃げ出すにもパワーが必要だ。現実のテレビマンや劇団員が同じように過酷な日々を過ごしているとなると、自分なんてまだまだ甘いのだがなぁ、と思ってしまった。

■ストーリー
15歳の時、 高校で「俺」は身長191センチのアキと出会った。普通の家 庭で育った「俺」と、 母親にネグレクトされていた吃音のアキは、 共有できる ことなんて何一つないのに、 互いにかけがえのない存在になっていった。 大学卒業後、 「俺」はテレビ制作会社に就職し、 アキは劇団に所属する。

しかし、 焦がれて飛び込んだ世界は理不尽に満ちていて、 俺たちは少しずつ、 心も身体 も、 壊していった......。思春期から33歳になるまでの二人の友情と成長を描 きながら、 人間の哀しさや弱さ、 そして生きていくことの奇跡を描く。本書は著者が初めて、 日本の若者の生きていく上でのしんどさに真正面から取り組んだ作品。

■感想
アキと俺の物語。身長191センチのアキは母親にネグレクトされ吃音で周りからイジメられていた。それを俺が、アキはマキライネンに似ているということで、皆に紹介したところ、そこからアキは変わっていく。アキの存在は特殊であり、母親との関係が特殊だ。

そこからアキは劇団に入り込み、劇団に力を注ぐことになる。本作だけ見ると、劇団員は人間的な生活を放棄する感じかもしれない。劇団が好きで将来性がなくともひたすら劇団の仕事にまい進する。それなりにインパクトがある生活であることは間違いない。

主人公の俺の生活は衝撃的だ。テレビの製作会社に就職し、過酷な毎日を過ごす。正直下請けのテレビマンの仕事がこれほど過酷ということに驚いた。恐らくは多少誇張されているとはいえ、事実に近いのだろう。ほとんど家に帰ることができず、ひたすら仕事をし続ける。

新人が来なくなることは日常茶飯事。読んでいて辛くなってくる。体調不良になったとしても休むことができない。常にスマホに連絡が来る状態で、心が休まることはない。まさに奴隷のような勤務環境だ。

下請けのテレビマンと社員とは大きな差があるのだろう。社員のディレクターが若手女優と婚約したりと、境遇に大きな隔たりがある。アキと俺の仕事環境の過酷さがそのまま人生へつながるというわけではない。結局、俺はテレビマンを辞めてしまう。

そして、ひきこもりの生活となる。恐ろしいのは鬱状態になると何も考えることができない部分だ。何かをしなければならない。部屋を掃除したり、洗濯をする必要があるのだが何も手につかない。まさに終わりの始まりだ。

こんな人生も身近にあるように思ってしまった。



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