太陽待ち 


 2023.3.31      複数の時空を超えたエピソードが絡み合う 【太陽待ち】

                     
太陽待ち / 辻仁成
評価:3
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■ヒトコト感想
新宿で撃たれたチンピラ。映画製作現場で美術を担当しているチンピラの弟。老映画監督。広島に原爆を落とすために活動したアメリカ兵。それぞれの時空を超えた回想が物語のメインとなっている。どのエピソードが印象深いかというと、一番は老映画監督が過去の日本の国策のために助監督として参加した南京での映画だ。

時代的なインパクトもそうだが、日本のために中国人のフェイファンがドキュメントを撮影する。その際の日本兵の中国人の虐殺もリアルに表現されている。それ以外には、兄の二郎が持っていたランドセルをしきりに探し求める藤沢という謎の男の存在が恐ろしい。複数のエピソードが絡みあい、時代を超えた何かを感じさせる作品だ。

■ストーリー
世紀末の新宿―撃たれた兄、その兄の、眠ることのできない元恋人、恐るべき過去を抱えた老映画監督、1937年南京―国策映画に駆り出された中国人少女、1945年広島―運命の日を迎える米兵捕虜…。異なる時代、空間を自在に往き来しつつ、愛と記憶の壮大な物語が展開する。

■感想
物語を一言で説明するのは難しい作品だ。序盤は銃で撃たれ昏睡状態となっている兄が残したであろうランドセルを探す謎の男がいた。弟の四郎に兄の二郎が残したランドセルをしきりに訪ね、家族の殺害をほのめかしながら四郎を脅す。

ランドセルの中には何があるのか。序盤から中盤にかけては、二郎が薬の売人をやっていたので、それがらみの謎の薬物かと思いきや…。二郎のエピソードから、四郎の映画現場でのエピソードがメインとなっていく。ひたすら太陽がでるのを待つ老監督。撮影現場の過酷さが描かれている。

老監督がなぜそこまで太陽にこだわるのか。そして、老監督の傍らに常にいるのは、二郎の恋人であった智子だ。その智子は老監督が若いころに恋をした中国人のフェイファンと似ている。映画現場では監督がすべてだ。

太陽がでるまで撮影は止まり続ける。そして、現場は疲弊していく。老監督のエピソードは、そのまま過去の南京での映画現場へと繋がっていく。日本兵が当たり前のように中国人を虐殺している南京で、日本のプロパガンダのための映画を撮影するエピソードだ。

広島へ原爆を投下するための兵士のエピソードもある。広島で捕虜として捕らえられており、いずれ原爆が落とされることを知りながら捕虜として生活する。捕虜の生活の中で食事を運んでくれる少女と出会う。この少女と兵士との子供が、二郎のランドセルを追いかけ続ける藤沢ということなのだろう。

すべてのエピソードは繋がっているということなのだろう。結局どんな物語かというと、説明は難しい。ただ、個別のエピソードは特殊なのでのめり込んでしまう。

複数のエピソードが絡み合う作品だ。



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