少女を埋める 


 2022.8.2      作者は厄介な人物だ【少女を埋める】

                     
少女を埋める[ 桜庭一樹 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
作者の私小説だ。最初読み進める中で、主人公の冬子は作者のようではあるが、フィクションなのだろうと思っていた。かなり自分の母親に辛辣な思いをつづる場面が多々あり、実の母親の秘密を暴露するような印象をもった。それが次の「キメラ」で、実はすべてが事実で批評家とのトラブルが書かれていた。

こんなトラブルがあったのは知らなかった。そして、作者が執拗に主張するあらすじと批評家の想像は分けて書くべきというのがあるのだが…。根底にあるのは、田舎で母親が周りからいわれのない誹謗中傷を受けることを危惧してのようだが…。例え批評家が正しく訂正したとしても、田舎の母親が肩身の狭い思いをするのは変わらないのだろうと思われた。

■ストーリー
2021年2月、7年ぶりに声を聞く母からの電話で父の危篤を知らされた小説家の「わたし」は、最期を看取るために、コロナ禍下の鳥取に帰省する。なぜ、わたしの家族は解体したのだろうか?――長年のわだかまりを抱えながら母を支えて父を弔う日々を通じて、わたしは母と父のあいだに確実にあった愛情に初めて気づく。しかし、故郷には長くは留まれない。そう、ここは「りこうに生まれてしまった」少女にとっては、複雑で難しい、因習的な不文律に縛られた土地だ。異端分子として、何度地中に埋められようとしても、理屈と正論を命綱になんとかして穴から這い上がり続けた少女は東京に逃れ、そこで小説家になったのだ――。

■感想
「少女を埋める」は強烈だ。母親と作者の仲の悪さも衝撃だが、それよりもかなり作者は気難しい存在というのがわかった。幼少期に母親から虐待を受けてきたことを語る。母親がそのことを忘れたフリをしつつ、実はしっかりと覚えていたことまでも語る。

父親と死別してからの一連の流れも強烈だ。何かと世代間の価値観の違いとしておさめてはいるのだが、それでは説明できないほどの母娘との確執というのを感じずにはいられない。母娘というのは仲が良いものと思っていたのだが…。

「キメラ」では、「少女を埋める」を読んだ批評家が、自分の想像をまるであらすじのような書き方をしたことでトラブルに発生する。それぞれの言い分はあるのだが…。作者は私小説を書き、それが地元で権威のある新聞に間違いのあらすじがのったことが許されないとのことなのだが…。

根本は入院する父親を母親が虐待したとの批評をあらすじとして書いたことへの批判だ。ただ、それ以外にもひっかかることは沢山あるはずだ。田舎の人たちは、それ以外の部分でもかなり作者の母親に対して悪いイメージをもつことだろう。

正直、本作を通して感じたのはかなり作者が厄介な人物だということだ。この騒動に巻き込まれた人には同情せずにはいられない。作者自身にしてもここまで大きくトラブルを引き起こしたことでプラスはほとんどないように思えた。

トラブル自体を作品として本作で描いているのだが、結局は作者の気難しさばかりが印象に残っている。「東京ディストピア日記」でも、微かに感じていたことだが…。かなりエキセントリックな人物であるように想像してしまった。

かなり強烈なインパクトがある作品だ。



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