シャイロックの子供たち


 2024.7.4    銀行員の悲喜こもごも【シャイロックの子供たち】


                     
シャイロックの子供たち [ 本木克英 ]
評価:3.5

■ヒトコト感想
原作は読んでいる。かなり魅力的な短編集だった。本作ではひとつの銀行を舞台にし、様々な短編の要素を盛り込んだ非常に魅力的な作品となっている。ドラマの「半沢直樹」に通じるような大逆転があるのが良い。総じて印象としては、銀行員は目の前に百万の札束が飛び交う職業なので、少しの気のゆるみからその札束に手を出してしまう可能性があるということだ。

他人事ながら、百万が銀行から無くなった際に、幹部たちがそれぞれ預金から金を出し合って補填するなんてのは、ありがちだ。それが検査部にばれるあたりもひりつく部分だ。出世コースから外れた支店長が、出世をあきらめ私腹を肥やすことだけを考える。それに巻き込まれた銀行員たちは不幸でしかない。

■ストーリー
東京第一銀行の小さな支店で起きた、現金紛失事件。ベテランお客様係の西木(阿部サダヲ)は、同じ支店の愛理(上戸彩)と田端(玉森裕太)とともに、事件の真相を探る。一見平和に見える支店だが、そこには曲者揃いの銀行員が勢ぞろい。出世コースから外れた支店長・九条(柳葉敏郎)、超パワハラ上司の副支店長・古川(杉本哲太)、エースだが過去の客にたかられている滝野(佐藤隆太)、調査に訪れる嫌われ者の本店検査部・黒田(佐々木蔵之介)。そして一つの真相にたどり着く西木。それはメガバンクにはびこる、とてつもない不祥事の始まりに過ぎなかったー。

■感想
様々な短編がひとつの物語として完成している。メガバンクにはびこる有象無象。怪しげな融資話があり、弱みを握られた銀行員の滝野は断れ切れずに融資の稟議を書くことになる。銀行として融資の実績を作りたいときにそんな話がくれば幹部も飛びつくのだろう。

そこから、滝野の苦悩が始まる。明らかに違法なことに手を貸しながら何もできない。いつバレるのかドキドキしながらの業務。家に帰ると子供と妻がいる幸せな家庭があるだけに、非常に心苦しくなる。他人事ではない苦しみを感じてしまった。

滝野の物語以外にも様々なエピソードがある。成績が上がらずに上司から厳しく言われ続けた銀行員。明らかに病んでいるのだが…。そこから急に元気になり預金の口座を作ってくれそうだ、50億の融資の話があると元気に駆け込んでくる。

上司は喜び勇んで客先へ向かうのだが…。どうにも衝撃的な展開となっている。そのほかにも銀行内のいじめや百万もの金がなくなった際の処理の仕方など、強烈なインパクトのある展開が目白押しだ。銀行員の業務というのは非常にシビアだと感じた。

ラストは池井戸潤原作作品らしいすっきりとした逆転劇がある。耐震偽装された建物を所有しており、どうにか処分できないかと考えていたおじさんの前振りが利いている。悪は最後には痛い目を見る典型でよい。

ただ、悪に手を貸してしまった者たちや、つい出来心で目の前の金に手を出してしまった人たちが報いを受けるのは当然なのだろう。金は返せばよいというものではない。銀行員なら誰もが感じることなのだろう。銀行員は、口座を握られているのでプライベートな金の出入りをすべて見られているのは強烈だ。

非常に目がはなせなくなる物語だ。



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