死者のための音楽 


 2024.6.15      乙一らしいホラー短編集 【死者のための音楽】


                     
死者のための音楽 (角川文庫) [ 山白朝子 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
七つのホラー短編集。作者は山白朝子となっているが乙一だ。独特の雰囲気は乙一作品そのまま。いくつか印象深い短編もある。「鳥とファフロキーズ現象について」が一番印象に残っている。乙一らしい不気味な雰囲気の中にも友情というか救いというか、何か先を見据える希望のようなものが漂っている。

そのほかの作品は、父親と娘が強盗に襲われ父親が死亡したが、のちに娘が父親を産むという奇想天外な物語や、井戸の中に人が住んでおり、ごく普通の生活をしている物語など、ありえないが、もしかしたらと思わせる展開がある。どことなくだが、全体を通して日本昔話のような雰囲気がある。子供向けではない。大人でもホラーに慣れていない人はつらいかもしれない。

■ストーリー
6篇の怪談短編に、書き下ろし作品を加えた愛と哀しみの短編集。幻想的な異界への境界と、親と子を描いた叙情的な物語は、怪談ファンのみならず幅広い読者の支持を得る。

■感想
「井戸を下りる」は印象的だ。井戸の下にはなぜか不思議な女が生活していた。何かあるとその女の元に向かう男。女は井戸から出ることはできない。井戸の下に普通に和室があるのは異常だが、頭の中には地底人のように井戸で生活する女の姿を想像してしまった。

入口は井戸だが、中は三角フラスコのように少し広がっているような感じだろうか。小さな畳の和室で生活する女と男。この世のものではない存在だとしても、そこがひと時の安らぎとなるので、男は女の元に通う。

「鳥とファフロキーズ現象について」は強烈なインパクトがある。巨大な鳥を助けたところ、なつくようになる。女が欲しいと思ったものを鳥はどこからか持ってきてくれる。そんな女の元に、女の遺産を管理する税理士の男がやってきて、女は好意を抱くのだが…。

鳥は女の思考が読めるので、女が男に好意を抱くと鳥が男を嘴でついばんで運んでくる恐れがある。。女の複雑な思いと、鳥は常に女を見守っている。ラストでは鳥はすべてを理解した上で行動していたのがわかる。

その他も、表題作や「鬼物語」などの印象的な作品もある。山白朝子という新人の作品ということであれば、これからが楽しみな作家となるのだが、乙一ということであれば、安定して乙一らしい作品というイメージとなる。

ホラーの要素が強すぎるのだが、もう少し弱くなり、教訓めいたことが入れば、日本昔話のひとつだといわれても信じてしまうかもしれない。乙一ファンならば楽しめるだろう。なぜ乙一名義ではなく別名義で作品を発表したのか、その意図は不明だ。

他の山白作品も読んでみようと思う。



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