2022.10.27 プロの声優になるための長く厳しい道のり 【心心 東京の星、上海の月】
心心 東京の星、上海の月 [ 石田衣良 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
声優を目指す若者を描いた作品。大量に存在する声優志望の者たちの中で、ほんの一握りの者だけが声優になれる世界。本作の主人公の陽児とアニメ好きの上海からやってきた少女・心心の物語となっている。序盤は声優になるための厳しい日々が描かれている。そこから心心が、実は中国の巨大スマホメーカー社長の娘であり、会社の株を大量に受け継ぎ大金持ちというのがわかる。
企業の覇権争いに巻き込まれることになる心心。そして、心心を仲間に引き入れるために声優志望の友達たちにも企業の魔の手が迫る。純粋な声優を目指す物語というよりは、企業の覇権争いに巻き込まれ、そこからどのように自分の意思を強くもつかというのが描かれている。
■ストーリー
渋谷にある専門学校の声優科に入学した石森陽児は、上海からやってきたアニメ好き少女・陽心心と出会う。異国の地でひたむきに夢を追う彼女に惹かれながら、幼なじみの浩平、元高校球児の健太郎、子役あがりの遥、元キオスク女子の真琴といった年齢も出自も違う仲間たちとともに特訓の日々を送る。ある日の夜、浩平に誘われ帰宅する心心のあとを興味本位でつけたところ、彼女を見張る不審なクルマに気づく。心心が抱える秘密とは? そして彼女は何者なのか――?
■感想
陽児と心心は、声優になるという同じ夢を追いかけている。他にも同じ夢をもつ者たちと、声優になるために必死に特訓の日々を送るのだが…。心心が企業の株を大量に保有しているため、副社長に目を付けられることになる。
心心を味方に囲い入れれば、企業の覇権を握ることができる。そのため、心心のみならず陽児や仲間たちにもおいしい話をもちかけてくる。声優志望の学生たちは、中国に新しいアニメスタジオを作るからとスカウトされると、飛びつかない者はいないだろう。
声優の世界は厳しい。声優として仕事を得ることができるかがまず狭き門だ。それを知りながら特訓を繰り返す。目の前にチャンスがあればだれでも飛びつくだろう。心心はそんな状況をどう考えるのか。陽児のみが周りの状況を冷静に判断し、うまい話にはのらないと考えるのだが…。
心心と陽児のちょっとした恋愛模様もある。このあたりは恋愛がメインではないので、ちょっとした学園モノ的な流れがある。その他、同級生のキャラクターも学園モノとして成立しそうなキャラクターたちばかりだ。
心心は決断をする。父親である社長の方につくのか、それとも副社長につくのか。アニメスタジオというおいしい話をぶらさげ、仲間たちを取り込み、そして汚い手もいとわない副社長側。対して、実の父親である社長はほとんど娘である心心とコミュニケーションをとることがない。
強烈なインパクトはないのだが、何より声優になるための道のりがとてつもなく長いというのは伝わってきた。世の声優志望の者たちは、ほぼすべてが声優になれずに夢をあきらめるということなのだろう。
声優という職業がこれだけクローズアップされたのは世間の流れなのだろう。
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