2022.12.8 死の香りが漂う中編集 【千年旅人】
千年旅人(たびと) [ 辻仁成 ]
評価:2.5
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■ヒトコト感想
3つの中編がおさめられた本作。映画化された作品もあり、死について考えさせられる作品ばかりだ。自殺願望のある青年が義足の少女と出会う物語、「砂を走る船」。死んだ恋人に実は別の恋人がいたことを知る男の物語、「シオリ、夜の散歩」。近親相姦に悩む男の物語、「記憶の羽根」がある。それぞれに死をイメージさせる流れがある。人はどのような時に死をイメージするのか。
後半の2作品は死に直結するようなものではないが、死の香りが漂っている。読む人の精神状態によってはかなり印象が変わるだろう。疲れ切った人や心身が消耗している人が読むと、死に引っ張られる可能性がある。健全な精神状態であれば純文学として楽しめるだろう。
■ストーリー
死にゆく男、自殺願望の青年、そして義足の少女。死者を海に還す風習の土地での三人の奇妙な出会い。透徹した響きに導かれる死と再生の物語―。
■感想
「砂を走る船」は自殺願望がある青年が義足の少女と出会う物語だ。特別な風習のある地域で偶然に出会うふたり。共感できるような作品ではない。死を選択する理由もよくわからない。純文学なので共感して楽しむべき作品ではないのだろうが…。
義足の少女というのがビジュアル的にイメージしやすく、それにより青年が死を思いとどまるというのもよくわからない。心の奥底が描かれているわけではないので、それぞれが想像するしかないのだろう。
「シオリ、夜の散歩」は、強烈だ。恋人のシオリが死んだ。長く付き合っており結婚も考えたような仲だったが、実は浮気をしていた。その相手が登場し一緒にシオリの死を悲しもうと話をしてくる。普通に考えるとこんな男が来たら相手にしないか、殴りたくなるのが本当だろう。
恋人が浮気をしていたとにわかに信じることができない男。生前のシオリの別の面を知るために男と行動を共にするのだが…。相手の男が、次々と女性をナンパしていく姿を見て男は何を思うのか…。
「記憶の羽根」は近親相姦に悩む男の物語だ。死が近いというわけではない。他の2編と比べると死のイメージは遠い。それでも許されない愛というか禁断の愛を前にして死はもしかしたら選択肢のひとつなのかもしれない。
この愛が成就しないのであれば死を選ぶ可能性もある。幼少期に異母姉と出会い、そして相手を意識し始める。そこから禁断の行為へ移行するまでは、そこまで時間はかからない。結婚という制度に縛られないのであれば自由になれるのだろうが…。
死をイメージさせるような中編集だ。
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