龍の仮面 下 


 2023.1.14      中国の国内事情を暗示するような作品 【龍の仮面 下】

                     
龍の仮面(下) 徳間文庫/佐々木敏(著者)
評価:3
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■ヒトコト感想
上巻ではCIAの工作員であるエリカが中国の孔義済に近づき、中国をコントロールしようとするまでが描かれていた。中国の軍事クーデターがどのように行われるか。そして、台湾と中国の関係がどのようなものかが描かれている。北京オリンピックが開催される前の作品なので、中国としてオリンピックを成功させることと台湾との関係をどのようにするのかがポイントだ。

国内のメンツを考え、対外的な動きとしてどうするのか。本心では攻撃などしたくないが、国内の分裂を抑えるために何かしら強い中国を示さなければならない。非常に難しい状況だ。誰も死人がでないとはいえ、最終的には核ミサイルを台湾の領土に発射する。とんでもない決断をした結果が描かれている…。

■ストーリー
孔義済は、台湾に実効支配されていた福建省金門島へ侵攻。台湾の総統宋独秀は、一時的な撤退を決める。北京五輪を開催させ2006年に台湾独立を達成、それを五輪までの2年間中国が黙認したという既成事実化を目的とした、大謀略が発動される!

■感想
中国と台湾の問題についてはほとんど認識していなかった。中国は台湾を併合したいと考え、台湾や世界はそれを拒否する方向である。中国の孔義済は、台湾の併合は不可能と考えているのだが、中国国内の軍部の動きを抑えるためには、台湾併合へと向かっているとポーズをとる必要がある。

複雑な政治的な駆け引きだ。CIAに制御されているといってもよい孔義済だが、実は隠された秘密があった。中国のウイグル自治区出身でイスラム教徒ということが大きな問題となる。

中国の構造的な問題をズバリ指摘している物語だ。外部に敵を作らない限り、自然にしていると中国は分裂する宿命にある。現在の中国も同じような感じなのだろう。ロシアがウクライナの併合に動いたために、中国国内ではより台湾併合へと舵を切らざるお得ないのだろう。

本作では台湾と中国の政治的な駆け引きと、国内向けのアピールとして最終的には核ミサイルを発射している。さすがにフィクションであるので、現実ではここまでいかないのだろうが…。

整形して別人となったエリカは整形したことにより癌が発生し余命わずかとなる。孔義済に近づくために整形し、最後まで秘密を守り続けたエリカ。中国が戦争しないためにCIAが必死に孔義済を制御し続けたのだが…。

誰もが世界の平和と経済の発展を願っている。それでも願いと逆行するように戦争を起こすのは政権の維持という意味合いが強いのだろう。戦争をして良いことなど何もない。国内に向けてメンツを保たなければクーデターが起こるという恐怖感からの戦争なのだろう。

世界の政治的な駆け引きがわかる作品だ。



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