リバー、流れないでよ [ 山口淳太 ]
評価:3
■ヒトコト感想
タイムリープもの。老舗旅館で巻き起こる奇妙な現象。あるタイミングから2分たつと元に戻る。時間が元に戻るだけで人々の意識はそのまま続いていく。つまりひたすら同じ2分間をループするのだが、人々はループしていることを理解しているので、なんとかしてこの状況を脱しようと2分だけの時間を積み上げて何か変化を起こそうとする。
2分というのはかなり短い。事情を説明している間にすぐに戻ってしまう。最初の混乱と2分戻るということは、常に食べたものが元に戻っていたり、体を洗ってもすぐに泡が付いた状態に戻ったりする。新しいタイプのタイムリープものだ。では、ラストはどうなるかというと、特に違和感なくなぞ解きされ終わっているのがすばらしい。
■ストーリー
舞台は、京都・貴船の老舗料理旅館「ふじや」。静かな冬の貴船。ふじやで働く仲居のミコトは、別館裏の貴船川のほとりに佇んでいたところを女将に呼ばれ仕事へと戻る。だが2 分後、なぜか再び先ほどと同じく貴船川を前にしている。「・・・・?」ミコトだけではない、番頭や仲居、料理人、宿泊客たちはみな異変を感じ始めた。ずっと熱くならない熱燗。なくならない〆の雑炊。永遠に出られない風呂場。自分たちが「ループ」しているのだ。
しかもちょうど2 分間!2分経つと時間が巻き戻り、全員元にいた場所に戻ってしまう。そして、それぞれの“記憶”だけは引き継がれ、連続している。そのループから抜け出したい人、とどまりたい人、それぞれの感情は乱れ始め、それに合わせるように雪が降ったりやんだり、貴船の世界線が少しずつバグを起こす。力を合わせ原因究明に臨む皆を見つつ、ミコトは一人複雑な思いを抱えていた―――。
■感想
老舗旅館のふじや。突如として時間が2分だけ戻る現象が発生する。仲居のミコト目線で物語はすすんでいく。旅館に宿泊する客たちや従業員は2分だけ戻る現象に四苦八苦している。このあたりが面白ポイントなのだろう。
鍋の締めでおじやを食べているが、いくら食べても2分時間が戻るので見た目はまったく減らない。温泉に入った客はシャンプーを流したはずが、またすぐに頭が泡まみれになる。熱燗を温めていた仲居は、すぐに温めなおしが必要となる。2分だけというのが絶妙な時間だ。
何度も同じ時間を繰り返すことで皆が気づき始める。このパターンも新しいかもしれない。普通のタイムリープものは繰り返していると理解しているのは一部の人のみだが…。今回は全員がタイムリープを理解し記憶を保持したまま2分間を繰り返している。
それを理解し、締め切りが迫っていた作家は、締め切りがやってこないと理解し急にリラックスしたりもする。この不思議な現象を解明しようと皆で話あうのだがすぐに時間切れとなり、次のターンでもう一度集まろうとなる。
オチはタイムマシン関係の話となる。最初の謎解きとしては、ミコトが恋する人物がフランスに行くことを防ぐために神様にお願いしたことが原因という、もやっとした流れだったのだが…。ラストではSF的ではあるが2分繰り返す原因が語られ、それを解消したことでタイムリープは収まることになる。
2分という絶妙な時間と、旅館周辺だけが2分繰り返していたということは、周りとの時間差はどうなっていたのか?なんて疑問をもってしまった。
新しいタイプのタイムリープものだ。