ライオンのおやつ 


 2022.11.12      死を前提としたリゾート地のような生活 【ライオンのおやつ】

                     
ライオンのおやつ [ 小川糸 ]
評価:3

■ヒトコト感想
ホスピスを描いた作品。割とありがちなパターンかもしれない。主人公の雫がホスピスで様々な経験をする。毎日のおやつを楽しみに、死を身近に感じると、日々の何気ない幸せが楽しくなる。健康体で普通に生活している人が本作を読むと、日々の何気ないことが幸せだというのを見つめなおす機会になるだろう。ホスピスを舞台にしているので、死を前提とした物語となっている。

そのため、ラストは雫に死が訪れるのは確定している。ただ、死の悲しみや恐怖が押し寄せるという感じではない。経験したことのないことが経験できる楽しみのようなものすら感じてしまった。雫の傍らには六花という犬がおり、その犬が雫の日常に彩を加えているのだろう。

■ストーリー
人生の最後に食べたいおやつは何ですか――若くして余命を告げられた主人公の雫は、瀬戸内の島のホスピスで残りの日々を過ごすことを決め、穏やかな景色のなか、本当にしたかったことを考える。ホスピスでは、毎週日曜日、入居者がリクエストできる「おやつの時間」があるのだが、雫はなかなか選べずにいた。――食べて、生きて、この世から旅立つ。すべての人にいつか訪れることをあたたかく描き出す、今が愛おしくなる物語。

■感想
ガンが見つかり余命僅かとなった雫。余生を過ごすのは瀬戸内海の島のホスピスだ。ホスピスでの生活は常に周りに死の香りが漂っているかと思ったのだが、本作を読む限りはそんなことはない。まるで心地よいリゾート地のような雰囲気がある。

朝はバリエーション豊かなお粥がでて、昼と夜は趣向を凝らしたメニューがでる。仲でも入居者からのリクエストに応えて作られるおやつがメインなのだろう。おやつに関する思い出が語られる。この場面は泣けてくる。おやつの思い出はつまり、死に行く人の思い出のように思えてしまった。

雫はちょっとした恋のような出会いもある。ただ、雫は死ぬ運命にある。相手も雫がホスピスにいることを知っている。ガンにならなければ出会うことのないふたり。雫がガンなので、関係が発展することはない。雫の実の親が事故で死に、おじさんに育てられたというのが泣かせる要素かもしれない。

ホスピスにいることをおじさんには黙っており、最後の最後に雫の幼馴染からの情報でおじさんは雫に出会うことができる。死を間近に控えた人はどのような心境になるのか。雫が終始落ち着いた雰囲気をだしているのは、さんざん泣いた後だからだろう。

死が近づくと六花との散歩もできなくなる雫。そして、あれほど楽しみにしていたおやつも食べることができない。モルヒネを投与され痛みを緩和することはできたとしても、日に日に体力はなくなっていく。ホスピスで生活するということは、いつ隣の部屋の人が死ぬかわからない状態ということだ。

皆、次第に体は弱っていく。現状維持の人はいるにせよ、良くなる人はいない。ある意味、未来のない閉鎖的な社会なのだが、それが逆にホスピスに平穏をもたらしているのだろう。

ホスピスがまるで素敵なリゾート地の別荘のように思えた。



おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
*yahoo.co.jp