2023.8.22 作者不在の連載小説と現実世界 【オキーフの恋人 オズワルドの追憶 上】
オキーフの恋人オズワルドの追憶 上巻 / 辻仁成
評価:3.5
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■ヒトコト感想
編集者である小林のパートと、小林が受け取った作者不明の小説「オズワルドの追憶」のパートがある。小林は自分しか見えないペニスをもつ少女オキーフと会話をする。心理学的な分析を盲目の榛名潤子が行い、小林が幼少期に母親にレイプされたと分析する。このことが真実なのかは不明のまま物語は進んでいく。
そして、小説オズワルドの追憶は、証券会社が倒産したため、探偵へと転職した男が下北沢での連続殺人事件に絡む物語となっている。小林のパートはまだ物語としての盛り上がりはないが、オズワルドの追憶は目まぐるしく変わる展開が興味深い。犯人は狡猾に動き、そして、刑事たちの裏をかき犯罪を実行する。下巻にかけてオズワルドの追憶は解決するのだろう。
■ストーリー
孤高の作家・高坂譲が小説の新連載開始を目前に失踪した。画家ジョージア・オキーフを敬愛する担当編集者の小林慎一郎は、編集者ともほとんど会うことがなかった高坂の代理人を務める榛名潤子を下北沢に訪ねる。噂通りの「行儀のいい美人」に抱いた密かな欲望を、小林は彼にしか見えない内なる少女オキーフに指摘される一方、心理学者としての顔も持つ榛名潤子による、失われた記憶を呼び起こすカウンセリングにのめりこんでゆく。
原稿は榛名潤子を介して小林に届けられ、作者不在のまま連載はつづく。作家が遺した小説「オズワルドの追憶」は、勤め先の証券会社が倒産し下北沢で私立探偵を始めた厄年の男が主人公のミステリー。酒と煙草と女に目がない新米探偵・夢窓賢治に舞い込む仕事といえば、迷子の猫探しや中学生の苛め問題ぐらいだったが、あるとき女子高校生を狙った殺人予告の電話が鳴る。これが悪夢のような連続殺人の始まりだった……。
■感想
小林は精神的に病んでいるのだろうか。謎の少女オキーフが目の前に表れ小林に語りかける。作家の高坂が、失踪しその絡みで榛名潤子と知り合うことになる。小林がオキーフを見るようになったのは、幼少期のトラウマによるところなのか。
榛名潤子に心理分析され、小林は混乱しながらも受け入れるしかない。高坂が描いた小説の世界と小林の現実世界の交わりはない。それでも、榛名潤子に関して小林に脅しの電話が入る。まだ全容は見えてこないが、小説作品内部での脅しの電話とリンクするように思えてしまった。
「オズワルドの追憶」の内容はハードボイルドな探偵小説風だ。元証券マンの夢窓が探偵として仕事をする。資産家の老婦人の逃げ出した猫を探す仕事や、イジメを受けている息子を助けるために美しい人妻からの依頼。そして、援助交際をする女子高生からの依頼など多種多様だ。
メインは下北沢で発生した女子高生連続殺人事件だ。夢窓が資産家老婦人に気に入られたり、人妻と良い関係になったりと典型的なハードボイルドの展開となっている。小林のパートとのリンクがあるかは不明だ。
どちらかというと、「オズワルドの追憶」のパートが興味深い。連続女子高生殺人事件の犯人逮捕のために女警察官を使って囮捜査をする。その結果…。常に警察の裏をかく犯人。そして、夢窓は犯人のスポークスマンの役割を与えられてしまう。
老婦人の誘拐事件も同時に発生し、事態は混沌としてくる。下巻ではそのあたりが解決されるのと、小林のパートで発生した小林を脅す電話の犯人についても、それなりに結論がでるのだろう。続きが気になるのは確かだ。
小説作品と小林の世界の関係が気になるところだ。
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