鳴かずのカッコウ 


 2024.2.26      本当のスパイは地味だ 【鳴かずのカッコウ】


                     
鳴かずのカッコウ/小学館/手嶋龍一
評価:3

■ヒトコト感想
公安調査庁。俗にいうスパイという感じなのだろう。それも敵対する海外の国との情報戦ということで、日本にもそんな組織があるのかと驚かされる。知り合いや家族に対しても正体を明かすことができない。のんびりと安定した生活を求めて入った役所が、実はスパイ組織だった。ただの漫画オタクの青年梶が、周りの先輩や上司に鍛えられ、立派なスパイになるという物語だ。

映画であるようなスパイの活動ではない。身分を隠して地道に関係を築き上げ、相手から情報を得る。情報を得るためには身内の伝手をフル活用する。インテリジェンスの世界では尾行を撒く行為が当たり前ということに驚いた。常に尾行を意識しながら仕事をしないといけない生活はつらい。

■ストーリー
公安調査庁は、警察や防衛省の情報機関と比べて、ヒトもカネも乏しく、武器すら持たない。そんな最小で最弱の組織に入庁してしまったマンガオタク青年の梶壮太は、戸惑いながらもインテリジェンスの世界に誘われていく。ある日のジョギング中、ふと目にした看板から中国・北朝鮮・ウクライナの組織が入り乱れた国際諜報戦線に足を踏み入れることに――。

■感想
公安調査庁は、警察や防衛相や自衛隊の情報機関とは別らしい。本作を読むと血なまぐさいスパイ映画のような銃撃戦はない。ただ、本当のスパイ活動とは非常に地味ではあるが、身分を次々と変えたりと生々しい感じが伝わってきた。

特に役所勤務ということにされ、本当にどんな仕事をしているかは、家族や友達にばらすことはできない。そのため、身分を隠して潜入するのは当然として、そこからターゲットと関係性を作り情報を得たりもする。非常に私生活にも影響のある仕事だ。

何か目的があってターゲットに忍び込むこともあれば、ふと目にしたことから潜入する場合もある。中国や北朝鮮、アメリカなどを含めた情報戦のタブーに切り込む。主人公の梶が存在感がない、という特殊技能を活かして入り込んでいく。

なんでもない韓国料理屋の女将は、一度来た客の顔と名前はすべて覚えてしまう。そんな化け物の女将ですら梶のことを覚えることができない。このキャラクターだからこそ、様々な組織に入り込むには適しているのだろう。

本作のラストは強烈だ。梶のスパイ行動の数々が描かれており、それは地味ながら成果がだせている。その結果、得られた情報は中国とアメリカが裏で情報取引をしていたということだった。これこそタブーなのだろう。

表立っては対立関係にある中国とアメリカが、実は世論をコントロールし裏では自分たちが都合の良いようにお互いが情報交換していた。それに日本の情報機関が気づいたことで大問題となる。開けてはいけない箱というのがあるのだろう。

情報機関に入ることのハードルの高さを思い知らされる作品だ。



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