もう消費すら快楽じゃない彼女へ 


 2023.12.10      衝撃的な事件についての作者の目を通したエッセイ 【もう消費すら快楽じゃない彼女へ】

                     
もう消費すら快楽じゃない彼女へ / 田口ランディ
評価:3
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■ヒトコト感想
田口ランディのエッセイ集。非常に印象的な短編が多数ある。世の中で話題になっていることや、自分が経験したことをエッセイとして描く。世の中を騒がせた事件について独自の目線で感想を述べる。印象的なのは作者自身が若いころに新聞配達所の料理担当としてバイトをしていたエッセイだ。新聞配達をしている人は変わり者が多いらしい。確かに、早朝と夕方に新聞を配りつつ、集金も行うとなるとかなり過酷な仕事だ。

新聞奨学生であればまだしも、普通に好んでする仕事ではないのかもしれない。そんな場所で出会った様々な人々。その他、競売にかけられた家を買ったはいいが、そこに住む家族が立ち退かないため、最終的に家族皆殺しに至るなど、特異な人々について描かれたエッセイだ。

■ストーリー
池袋路上通り魔事件、TOSHIの洗脳、酒鬼薔薇聖斗事件、林真須美事件、野村沙知代問題、オウムなど、世の中を騒がせた社会現象の実相とは?そして微妙なバランスの上で成り立っている現実世界の柔軟性の本質とは?普通より少しだけ変わった人達の哀しくもいとおしい姿に共感しつつ、それでも変わらぬ日常のリアルの数々を綴るコラム。

■感想
表題作である「もう消費すら快楽じゃない彼女へ」は、作者が知り合った水商売の女について語られている。ひょんなことから知り合いとなり、終電がないので家に泊めてもらうことになる。そこで、その女の部屋に行くのだが…。

そこはゴミ屋敷だった。若いうちから何に対してもやる気が起きない女。普通の女性ならば水商売をして金が入れば高級なブランドのバッグなどを買いたいという欲が生まれ、それが快楽へとつながっていくはずなのだが…。どのような原理で興味をなくしたのかは不明だ。

作者が出合ったある男はどこかおかしかった。それがのちに競売の家に居座った家族を皆殺しにした男だとわかる。非常に強烈な作品だ。これから殺人を犯すまでに追い詰められた人間というのは、やはりどこか普通ではないのだろう。

強いストレスと何かを引き起こすまでの勢い。自分が投資として競売の家を買ったは良いが、その物件が売れないと借金がかさむばかり。かといって、居座った家族たちが出ていくわけもない。皆殺しに至るまでには話し合いもあったはずなのだが…。

新聞配達員たちとの交流が描かれているエッセイは強烈だ。自分も大学時代に同級生で新聞配達の奨学生として学校に通っている者がいたが…。結局、ほとんどの時間を新聞配達と集金にとられるので、学校にはほとんど来なかった。現実としてそうなってしまうのだろう。

常に早起きのことを考えなければならない。それらの者たちに食事を毎日作るのも大変だ。それなりにインパクトがあるのは間違いないのだが、作者の目というフィルターが入るとまた一つの事柄でも変わって感じてしまう。

強烈なインパクトのあるエッセイ集だ。



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