目下の恋人 


 2023.6.8      恋人から目下の恋人と言われる女 【目下の恋人】

                     
目下の恋人 / 辻仁成
評価:2.5
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■ヒトコト感想
辻仁成の短編集。過去にいろいろな作品で読んだことにある短編も含まれている。911テロの衝撃をTVで見ているまさにその時に妻から離婚を突きつけられる男の話は、もしかしたら作者の経験に基づいているのでは?と思えて仕方がない。作者のプライベートの大きな変化は、多数のエッセイで認識しているのでリアルに感じてしまう。

表題作である「目下の恋人」は強烈なインパクトがある。長年付き合っている恋人から、人に紹介される際に「目下の恋人」なんて紹介のされ方をしたらショックをうけるのは当然だろう。いかにも一時的な恋人でつなぎでしかないように思えてしまう。その紹介の仕方には実は秘密が隠されていた…。

■ストーリー
「目下の恋人、ネネちゃん」ヒムロは彼女を人にこう紹介する。刹那的に見えるヒムロに結構傷ついている彼女だったが、ある日、本当は愛に生きたい彼の真情を察知して…(表題作)N.Y.9.11―テロ事件の真最中、妻から離婚の話を切り出された小説家。画面上の衝撃と心の惨劇が交錯して進む問題作「君と僕のあいだにある」など愛と恋の物語、感動の10編を収録する。

■感想
どこかで読んだことのある短編がチラホラ収録されている本作。印象的な短編がいくつかある。都合の良い女として扱われた物語は最高だ。キスのうまい男にはまり、金づるにされていると気づきながら、離れられない。金に執着しても意味がない。

なんて悟りを開いたような言葉を紡ぐ。女が夫の退職金を盗み出して旅をしていると知りながら、その資金を無駄に使う。男の都合の良すぎる言いっぷりにイライラしてくるが、一番イライラするのはそれを受け入れている女だ。

「君と僕のあいだにある」は、911の衝撃的な映像を前にして離婚を突きつけられる男の心境が描かれている。作家としてコメントを求められるのだが…。911の大惨事よりも個人的な問題の方が大きいのだろう。

目前でビルに飛行機が突っ込んだとしても、現実にある離婚届の方が力は強い。その瞬間だけ、男にとっては周りのことは何も見えない状態となっているのだろう。このあたり、もしかしたら作者の実話では?と思ってしまう。作者の離婚のタイミングも同じような…。

表題作でもある「目下の恋人」はすばらしい。ネネは自分の扱いが「目下の恋人」ということに不満をもっている。遊び人であるヒムロがいつ自分から離れていくのか。目下の恋人のまま数年が過ぎて、ネネはヒムロとヒムロの祖母の家に向かうのだが…。

そこで目下の恋人の真実が語られる。恋人から目下の恋人なんて紹介のされ方をしたら、すぐに別れた方がよいとアドバイスしたくなる。いずれ別れることが確定しているような印象なのだが…。

作者らしい雰囲気の短編集だ。



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