ロストケア [ 前田哲 ]
評価:3
■ヒトコト感想
高齢者の介護の問題を真正面から描いた作品。昔から言われてきたことだが、一般人からは見えない部分で介護での問題は発生しているのだろう。訪問介護センターの所長の死体が発見されてから、次々と介護センターと関係する老人たちの死亡率が高いことが判明する。真実を明らかにするために検事の大友は動き出すのだが…。
老人介護の問題を赤裸々に描いている。痴呆症が出始めた老人の介護に手を取られ働くことができない。どうしようもない出口の見えない介護に苦しむ家庭を救うのが斯波の役目だった。実際にニュースで頻繁に流れる介護を苦にした殺人事件がある。それを地で行くような内容となっている。家族すべてを崩壊させることを防ぐためにはしょうがないことなのかもしれない。
■ストーリー
早朝の民家で老人と訪問介護センターの所長の死体が発見された。捜査線上に浮かんだのは、センターで働く斯波宗典(松山ケンイチ)。だが、彼は介護家族に慕われる献身的な介護士だった。検事の大友秀美(長澤まさみ)は、斯波が勤めるその訪問介護センターが世話している老人の死亡率が異常に高く、彼が働き始めてからの自宅での死者が40人を超えることを突き止めた。
真実を明らかにするため、斯波と対峙する大友。すると斯波は、自分がしたことは『殺人』ではなく、『救い』だと主張した。その告白に戸惑う大友。彼は何故多くの老人を殺めたのか?そして彼が言う『救い』の真意とは何なのか?被害者の家族を調査するうちに、社会的なサポートでは賄いきれない、介護家族の厳しい現実を知る大友。そして彼女は、法の正義のもと斯波の信念と向き合っていく。
■感想
老人介護により家族が崩壊する。介護センターに関連した老人たちの異常な死亡率に気づいた検事の大友が調査をすると、恐ろしい実情が明らかとなる。斯波が老人たちをひそかに殺害していた。それは家族を救うための行動だった。
痴呆症を発症した老人の介護のために家族は疲弊していた。それをつぶさに観察していた斯波は行動にでる。作中では介護していた老人が斯波に殺されたことで、未来が開けて幸せになった家族もある。一方で人殺しとなじる人もいる。
斯波は父親の介護に疲れ果て、自らが父親に引導を渡した経験があった。かなり悲惨な状況だ。痴呆症が激しい父親の面倒をみるために斯波自身は働くことができない。父親の年金だけでは生活できないため、生活保護の申請をだしたのだが…。
斯波自身が働けるからと、生活保護の申請は却下されてしまう。もはやこうなると八方ふさがりだ。一方で同じ状況であっても検事の大友は、母親が介護施設に入っているために問題はない。このあたり、恵まれた環境にいる人にとっては見えない部分となっている。
誰もが他人事ではない状況だ。斯波が自分の信念のもとに行動する。介護疲れで父親を殺害、なんてニュースはあちこちで聞くことだ。世の中はこのあたりのセーフティーネットがあるようでない。どうしようもない人はいる。
安楽死が許されない状況であり、親が痴呆症にかかると、子供としては絶望感しかない。ふと、自分も同じような状況になりかねないと思っていた。何かひとつでも歯車が崩れると、どん底から浮き上がることは非常に難しい。
強烈なインパクトのある作品だ。