くちびるに歌を 


 2024.11.13      Nコンに熱くなる急造合唱部の青春 【くちびるに歌を】


                     
くちびるに歌を [ 中田永一 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
五島列島を舞台にした中学生のNHK全国学校音楽コンクールに参加する物語だ。障害をもつ兄がおり、学校では目立たず空気のような存在の桑原や、合唱部に所属しており、祖父母と暮らしている中村ナズナなどの視点で描かれる物語だ。合唱部の顧問の代わりに柏木という美しい女性がやってきた。柏木目当てに急に合唱部に参加する男子たち。

合唱部の長谷川コトミに恋をする桑原も成り行きで入部することになるのだが…。ラストは佐世保での合唱コンクールに参加するまでが描かれている。中学生の青春が描かれているのだが、みなそれぞれ悩みや苦しみを抱えている。合唱コンクールの課題曲に合わせて15年後の自分に手紙を書くというのがポイントなのかもしれない。

■ストーリー
長崎県五島列島のある中学合唱部が物語の舞台。合唱部顧問の音楽教師・松山先生は、産休に入るため、中学時代の同級生で東京の音大に進んだ柏木に、1年間の期限付きで合唱部の指導を依頼する。それまでは、女子合唱部員しかいなかったが、美人の柏木先生に魅せられ、男子生徒が多数入部。ほどなくして練習にまじめに打ち込まない男子部員と女子部員の対立が激化する。

一方で、柏木先生は、Nコン(NHK全国学校音楽コンクール)の課題曲「手紙~拝啓 十五の君へ~」にちなみ、十五年後の自分に向けて手紙を書くよう、部員たちに宿題を課していた。提出は義務づけていなかったこともあってか、彼らの書いた手紙には、誰にもいえない、等身大の秘密が綴られていた--。

■感想
女子だけで頑張ってきた合唱部に突然男子が入ることになると、様々な軋轢が起きるだろう。それも臨時教員の柏木に興味があるからという不純な動機であればなおさらだ。中学生の男女の青春が描かれている。

合唱コンクールに出場するために必死に練習する女子。不真面目な男子。この図式から、男子が次第に合唱に興味をもち始める。ありきたりなスポコンものではない。主人公である桑原は兄の障害のことや、自分がボッチであることを自覚しながら、身の丈にあった立ち回りをしている。

中村ナズナは、父親がダメ人間で周りに迷惑をかけ続けたことに負い目をもっている。この二人を中心に、だれがだれを好きだとか、桑原の淡い恋心が崩れ去る場面など、青春の1ページが濃密に描かれている。

臨時教員の柏木もそれなりにトラウマをもっており、なおかつ、自分が男子生徒から興味の対象となっていることをわかっていながらの立ち回りもある。誰がよくて誰が悪いというのはない。桑原の恋が破れたが長谷川コトミを助けることに成功したり。様々なイベントが詰まっている。

最終的には佐世保で開催される合唱コンクールに参加することになる。この段階では、不真面目だった男子生徒たちも心を入れ替えて合唱に力を入れることになる。15年後の手紙で自分の負い目を赤裸々に語る。

桑原は両親から兄がいることは周りに秘密にしろと言われ、初めて手紙で真実を暴露する。桑原自身は兄の面倒を見るためだけに両親が自分を産んだのだと勘違いしている。障害をもつ兄はひとりでは生活できない。そんな兄の面倒を一生見ることを義務付けられたと思い込んでいるのはかなり強烈なことだ。

実は実写映画化されているらしい。



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