クスノキの番人 


 2022.9.19      人の意思がクスノキの中に残る 【クスノキの番人】

                     
クスノキの番人 [ 東野圭吾 ]
評価:2.5
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■ヒトコト感想
素行不良で起訴されかかった玲斗を助けたのは玲斗の叔母にあたる千舟だった。玲斗がクスノキの番人の仕事をすることになり、不思議な物語がスタートする。当たり前のようにクスノキに人が何かを念じると、その念を肉親であれば感じ取ることができるらしい。物語としてミステリアスな展開があるわけではない。

序盤ではクスノキへ祈念することにどのような意味があるのか、玲斗が理解できていないので、読者も同じようにクスノキにどのような秘密があるかがミステリアスな部分だった。巨大な企業の創業家である柳沢家。そこの顧問である千舟。玲斗は場違いな雰囲気がありながら、クスノキの番人として成長していく。ミステリアスな部分は弱い。

■ストーリー
その木に祈れば、願いが叶うと言われているクスノキ。その番人を任された青年と、クスノキのもとへ祈念に訪れる人々の織りなす物語。不当な理由で職場を解雇され、その腹いせに罪を犯し逮捕されてしまった玲斗。同情を買おうと取調官に訴えるが、その甲斐もなく送検、起訴を待つ身となってしまった。そこへ突然弁護士が現れる。依頼人の命令を聞くなら釈放してくれるというのだ。依頼人に心当たりはないが、このままでは間違いなく刑務所だ。

そこで賭けに出た玲斗は従うことに。依頼人の待つ場所へ向かうと、年配の女性が待っていた。千舟と名乗るその女性は驚くことに伯母でもあるというのだ。あまり褒められた生き方をせず、将来の展望もないと言う玲斗に彼女が命令をする。「あなたにしてもらいたいこと――それはクスノキの番人です」と。

■感想
玲斗は母子家庭に育ち、父親が誰かわからない状態で暮らしていた。出自の不幸はあるのだろうが、その後、就職してからもだらしなく、結局は逮捕されることになる。起訴される直前に母親の腹違いの姉である千舟から助けられることになる。

助ける条件としてはクスノキの番人としての仕事をすること。まず、序盤ではクスノキの番人の仕事と、クスノキに祈念することにどのような意味があるのかが不明のまま物語はすすんでいる。巨大企業である柳沢グループが成功した秘密があるのか?と思わずにはいられない。

玲斗はクスノキへの祈念にどのような意味があるのか教えられないまま番人をしている。同じく読者もクスノキの効果がわからない。玲斗は新月に祈念しにくる人と、満月に祈念する人が違うこと。さらには、肉親と思われる者が来ていることから、ある程度想像していく。

ただ、何か大きな事件やミステリアスな展開があるわけではない。ある人物が祈念に通っていることで、その娘が父親が浮気をしていないかと怪しみだし玲斗からクスノキの秘密を聞き出そうとする下りがある程度だ。

結局、クスノキへの祈念というのはファンタジーあふれる展開ではある。それが、そのまま物語内では当たり前のこととして通じている。人に言葉で伝えることなく、手紙や遺言で伝えなくとも祈念することでクスノキの中に本人の思いが残る。それを肉親が受け取ることができる。

ポイントとしては、伝えたいことだけではなく、その人の良いところ悪いところ、隠したいことも全てクスノキの内部に蓄積されるということだ。その念を受け取ることができるのは肉親だけ。受け取れないのは血のつながりがない証明となってしまう。

ミステリアスな雰囲気は弱い。



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