2022.3.13 オチはないが感動する 【コロナと潜水服】
コロナと潜水服 [ 奥田英朗 ]
評価:3.5
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■ヒトコト感想
相変わらず作者の作品はオチが特にあるわけではないが妙に感動してしまう。コロナ時代を揶揄したような作品もあれば、感動物語もある。全体的にオカルト的な要素があるのだが、そこに恐ろしさはない。心霊現象的な部分を登場人物たちがポジティブな感覚でとらえている。オカルトのオチがなくとも、そういうものか、という感覚で読み終わっている。どれもちょっとした感動物語となっている。
なんてことないネタではあるが、読みやすく感動を引き起こす。キャラクターもごく普通なのに。。。なぜこれほど心惹かれるのかわからない。作者のその他の作品全般に言えるのかもしれないが、非常に読みやすいというのがある。ジャンルは何かと言われると困るのだが、日常にありそうな部分が良いのだろう。
■ストーリー
ある理由で家を出た小説家が、葉山の古民家に一時避難。生活を満喫するも、そこで出会ったのは(「海の家」)。早期退職の勧告に応じず、追い出し部屋に追いやられた男性が、新たに始めたこととは(「ファイトクラブ」)。人気プロ野球選手と付き合うフリー女性アナウンサー。恋愛相談に訪れた先でのアドバイスとは(「占い師」)。五歳の息子には、新型コロナウイルスが感知できる?パパがとった究極の対応策とは(「コロナと潜水服」)。ずっと欲しかった古いイタリア車を手に入れ乗り出すと、不思議なことが次々に起こって(「パンダに乗って」)。コロナ禍の世界に贈る愛と奇想の奥田マジック。
■感想
最も印象的なのは「パンダに乗って」だ。古いイタリア車のパンダを中古で買った男が、パンダの元の持ち主の思い出の地を巡る。生き先々で真っ赤なパンダを見た人が必ず元持ち主のことを思い出し、良い思い出として語る。
最初は不思議な物語風になっていたが、パンダがカーナビで指し示す場所へ行くことへの違和感がなくなり、最後には元持ち主の関係者たちの感動物語を楽しむようになってしまう。強烈なオチがあるわけではないが、最後は少し感動して泣きそうになってしまった。
「コロナと潜水服」はコロナ渦を揶揄するような作品だ。コロナに感染した人を察知する能力がある息子。ごく普通のサラリーマンである男がコロナ感染を疑われた場合、自ら周りに感染を広げないために潜水服を着て生活する。コロナの大騒ぎを面白おかしく描いている。
数年後に本作を読むと、なんてバカなことをしていたんだ、と思うことは間違いないだろう。ただ、間違いなく現実に起きていたことだと証明するために作者は本作を描いたような気がする。コロナの大騒ぎを如実に現した作品だ。
「海の家」は古い家に住み着いた小さな子供の霊に遭遇した作家の物語だ。「パンダに乗って」と同じようにオカルト風味があるのだが、怖さはない。逆に少年の霊とちょっとした交流を持つような物語なのかもしれない。ラストでは瀕死の重傷を負った作家を助ける役目を少年の霊がはたしている。
オチはない。オカルトの原因を掘り下げることもない。ただ、現象をそのまま描き、そして深くは語らないが、主人公が優しい気持ちになっていることを感じる作品だ。
どれも短編として読みやすく、ちょっと感動する物語ばかりだ。
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