黒牢城 


 2022.7.22      歴史ミステリーの最高傑作 【黒牢城】

                     
黒牢城 [ 米澤穂信 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
歴史ミステリー。どの程度史実にのっとっているのかわからない。織田信長に攻められている有岡城にたてこもる木村村重をメインとした物語だ。連作短編集であり、それぞれにミステリアスな流れがある。誰が人質を殺害したのか。安楽椅子探偵的な立場で、村重に捕らえられた黒田官兵衛が村重の疑問に答える。ミステリーとしての評価が非常に高い本作。

確かに、今までにない歴史ミステリーだ。仕掛けにしても、衝撃的なトリックがあるわけではないが、納得してしまう。誰が大将の首をとったのかなど、戦国時代だからこそ発生するミステリアスな展開だ。それぞれの短編の流れがラストの短編に繋がっている。歴史に詳しい人であればより楽しめることだろう。

■ストーリー
本能寺の変より四年前、天正六年の冬。織田信長に叛旗を翻して有岡城に立て籠った荒木村重は、城内で起きる難事件に翻弄される。動揺する人心を落ち着かせるため、村重は、土牢の囚人にして織田方の智将・黒田官兵衛に謎を解くよう求めた。事件の裏には何が潜むのか。戦と推理の果てに村重は、官兵衛は何を企む。

■感想
織田信長が本能寺の変で殺されるよりも前に、木村村重討伐に出陣していたことは知らなかった。使者としてやってきた黒田官兵衛を捕らえた村重。どのあたりまで史実に基づいているのかは不明だ。ただ、戦国時代だからこそ成立するミステリーがすばらしい。

人質を殺さないと決断した村重だが、人質は殺されていた。誰が人質を殺したのか。そもそも、人質は死ぬ気でいた。殺されずに捕らえられ続けることを屈辱と考え、部下たちも人質を殺すべきと考えていた。複雑な事情が絡む流れとなっている。

そのほか、夜中、敵陣への奇襲に成功し、大将の首をとったはいいが、誰も大将の顔を知らないのでどれが大将かわからない。それは命をかけて戦う兵士たちへ適切な褒美を与えることができないことに繋がり、ひいては謀反にもつながる。

大将首の手柄を二人の部下のどちらに与えるのか。明確な理由がなければ不満がでるのは明らかだ。部下を抱える大将として、正しく評価することの難しさと、それが謀反に繋がる怖さが描かれている。牢屋にいるはずの黒田官兵衛が全てを看破しているのが印象的だ。

有岡城内部での情勢は変化していく。信長の攻撃を防ぎ続け有岡城に籠城を続けるのだが…。負けはしないが勝つこともない。そんな状態では内部からの不満が噴出しかねない。本作が強烈なのは、それまでのミステリアスな展開への回答を示していた黒田官兵衛は、すべて村重を追い落とすために考えたアドバイスだったことだ。

最後には官兵衛の思い通りの展開となる。現代のミステリーでは成立しない流れなのかもしれない。出自やプライドなどが複雑に絡み合う展開だ。

歴史ミステリーとして非常に優れている。



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