可燃物 [ 米澤穂信 ]
評価:3.5
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■ヒトコト感想
米澤穂信の新シリーズ。班を率いて事件を解決する葛警部が主人公の短編ミステリーだ。葛警部は刑事としては特殊ではないかもしれない。緻密な捜査と裏付けや動機付けをしっかりと捜査する。そして、容疑者への事情聴取は、部下にまかせず自分でやることもある。すべての要素を捜査し、ラストでは葛警部だけが見えている世界がある。
骨太な犯罪ミステリーというような感じだ。アッと驚くトリックというわけではなく、動機やそこに至るまでの経緯をしっかりと調査してから事件の解決へとすすむ。ある程度犯人が判明している状態でも、動機がはっきりするまで捜査を続ける。しつこいまでの緻密な調査が物語をしっかりとしたものだと印象付けるのだろう。
■ストーリー
余計なことは喋らない。上司から疎まれる。部下にもよい上司とは思われていない。しかし、捜査能力は卓越している。葛警部だけに見えている世界がある。群馬県警を舞台にした新たなミステリーシリーズ始動。
■感想
「崖の下」は、スキー場で遭難した者が何者かに殺害されていた。凶器は不明のまま、一緒に遭難した相棒が容疑者となるのだが…。状況証拠だけであれば、相棒が犯人であるのは間違いない。ただ凶器が見つからない。
殺害を行う動機についてもはっきりしている。最後の最後に凶器が判明するのだが、意図した殺害なのか事故なのかというのは濁されている。スキー場で遭難した際の殺人ということで、定番的ではあるが、つららが凶器なのでは?と思ったが、そんな安易な凶器ではなかった。
「命の恩」は、強烈だ。過去に山で遭難した親子が被害者に助けられた。容疑者は被害者に助けられた親子の父親となる。命を助けられた恩人を何故殺害するのか?人生をかけて恩返しをするとまで話をしていた男が恩人を殺害する動機とはなにか。
強烈な物語だ。登山経験豊富な容疑者がなぜ人通りの多い山道にバラバラ死体を捨てたのか。殺人容疑をかけられ、あっさりと自白をしているが、葛警部は動機の面で怪しさを感じており捜査を続けている。結末はすさまじいインパクトがある。
表題作でもある「可燃物」は、連続放火事件の犯人を追う物語だ。何人かの容疑者が登場し、証拠から一人の男が犯人として浮かび上がってくるのだが…。容疑者は過去に倉庫管理をしている時に火災を起こし大きな被害が発生していた。
そんな容疑者が連続放火を行っていた。ただ、ぴたりと放火を止めたのは、目的が達成されたからだ。葛警部は放火犯が放火を止めた理由を解明し、容疑者を追い込んでいく。ちょっと犯人の心理がわからないが、これも緻密な捜査による結末となる。
新しいシリーズとして菓子パンとカフェオレで食事を済ます葛警部は魅力的だ。