怪物に出会った日 井上尚弥と闘うということ [ 森合正範 ]
評価:3.5
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■ヒトコト感想
ボクシングの井上尚哉と対戦し、負けた者たちへインタビューを行う。ボクシングは他の競技と比べ、個人への依存が高く、そして一試合に懸ける意気込みとしては最大かもしれない。命を賭ける思いで試合に挑み、圧倒的な差を見せつけられて敗れた者たち。特に印象的なのは、アルゼンチンでは伝説のチャンピオンとしてあがめられたナルバエスのインタビューだ。
井上尚哉の強さをメディアは表現できていない。自分が同じようにいとも簡単に勝利していると報じられた経験に基づいているのだろう。そんな伝説のチャンピオンが21歳の若者との差を実感し、これ以上試合を続けても無駄だと判断した。そこまで圧倒的な強さがあり、命を賭けて試合に臨んだ者の心を折るのはすさまじいインパクトがある。
■ストーリー
「みんな、井上と闘うなら今しかない。来年、再来年になったらもっと化け物になる」2013年4月、井上尚弥のプロ3戦目の相手を務めた佐野友樹はそう叫んだ。それからわずか1年半、世界王座を計27度防衛し続けてきたアルゼンチンの英雄オマール・ナルバエスは、プロアマ通じて150戦目で初めてダウンを喫し2ラウンドで敗れた。「井上と私の間に大きな差を感じたんだよ……」。2016年、井上戦を決意した元世界王者・河野公平の妻は「井上君だけはやめて!」と夫に懇願した。
WBSS決勝でフルラウンドの死闘の末に敗れたドネアは「次は勝てる」と言って臨んだ3年後の再戦で、2ラウンドKOされて散った。バンタム級で史上初となる4団体統一を果たし、スーパーバンタム級初戦となったフルトン戦と2023年12月のタパレス戦の勝利で2階級4団体統一王者となった「モンスター」の歩みを、拳を交えたボクサーたちが自らの人生を振り返りながら語る。強く、儚く、真っ直ぐな男たちが織りなす圧巻のスポーツノンフィクション。
■感想
井上尚哉の試合はナルバエスの試合以降はすべて見ている。本作で紹介された序盤での試合は見ていない。本作を読んで驚いたのは、まずアマチュアの高校生時代に、すでに現役の日本チャンピオンを凌駕する強さをもっていたということだ。
井上尚哉と最もスパーリングをした男である黒田。正式な試合は行っていないが、プロテストの際の相手にも選ばれている。いわば、井上尚哉の強さを測るために用意された人材といえるかもしれない。そして、プロテスト前の高校生に圧倒的な差を見せつけられた時の心境も語られている。
ナルバエスとの試合はリアルタイムで見ていて興奮したのを覚えている。伝説のチャンピオンに2階級下からあげてきた21歳のチャレンジャー。無謀な挑戦かと思いきや、圧倒的な差を見せつけ2ラウンドでOKした。その後に再戦条項が付加されていたので、ナルバエスは井上に挑戦できるはずだったのだが…。
勝てないとわかり挑戦をしなかった。自分が負けるのなら判定はない。圧倒的な実力差でねじ伏せられKO負けすると想像していたナルバエス。それが、21歳の若者だとは想像もしていなかったことだろう。
そのほか、様々な相手が井上尚哉について語っている。その前段として、それぞれの選手がどのようなバックグラウンドでボクサーとしてのキャリアを積んできたのかも描かれている。ボクシングに対するスタンスも異なる。金のためなのか、強さを求めるのか。
規律正しく自分を律することができるのか。ほとんどの選手が井上尚哉と試合をしたことを誇りに思い、満足している。今やPFPで1位となったこもある井上尚哉。同じ時代に生まれなければ、と悲観するのではなく、逆に強くなれたと考えるのはすさまじいインパクトがある。
日本歴代ナンバーワンのボクサーであることは間違いない。