ジェンダー・クライム [ 天童荒太 ]
評価:3.5
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■ヒトコト感想
土手に男の遺体が転がされていた。遺体にはレイプされた跡があり、「目には目を」というメッセージが書かれていた。ジェンダーについて、ことさら強調した作品。過去の集団レイプ事件の加害者の父親である男が殺されたと判明する。被害者の関係者が殺害を実行したのかと想像したのだが…。
捜査を行う刑事が元柔道オリンピックの日本代表候補であったり、コンビを組む男が頭は切れるがジェンダーについて神経質なまでに言葉遣いを注意したりもする。性犯罪は被害者の心に深い闇を刻むというのがあらためてわかる物語だ。被害者家族は絶望の闇に落とされ、家族は崩壊する。そんな被害者家族の誰かが加害者の父親に手をかけたのかと思ったのだが…。
■ストーリー
誰もが容疑者。誰もが当事者。性にまつわる犯罪……ジェンダー・クライムは連鎖する。土手下に転がされていた男性の遺体。暴行の痕が残る体には、メッセージが残されていた。「目には目を」なんと男の息子は、3年前に起きた集団レイプ事件の加害者だった――。次々現れる容疑者、そして新たな殺人。罪を償うべきは、あなたかもしれない。
■感想
中年男性の死体が河川敷に放置されていた。レイプされた形跡があり、そこにはメッセージが。。事件を捜査する刑事たちが個性的でよい。柔道家の鞍岡は昔ながらの柔道家という感じで、男尊女卑の感覚は強い。コンビを組むルーキーの志波は、頭が切れ優秀ではあるが、何かとジェンダーの平等にうるさい男だった。
このコンビが良い。優秀な志波には何か隠し事があるとわかり、警察幹部と通じていることから裏で特命を受けているのでは?なんてことを想像してしまった。
殺された男の周辺を捜査していると、3年前の集団レイプ事件の加害者の父親だとわかる。集団レイプ事件の強烈なインパクトと、その被害者の絶望がすさまじく伝わってきた。この事件をきっかけとして被害者家族は崩壊する。
加害者の中心人物は身内に政治家とコネがあり、周りから圧力をかけて事件をなきものにしようとしていた。ヘドがでそうなほど最悪な加害者たち。因果応報でリベンジを行うであろう人物が登場したかと思うと、加害者側を守ろうとする元刑事まで登場してくる。
ラストは意外な人物が犯人として登場してくる。集団レイプ事件に関係する人物ではあるが、想像の外側にいる人物だった。加害者グループの中は、必ずしも悪人ばかりではない。事件を後悔し被害者に対して謝罪しようと考えていた者もいた。
加害者の身内、事件を抑えたい元刑事、そして加害者本人。これらが三つ巴となり、どのような結末を迎えるのかは最後までわからない。加害者の父親を殺したのは思いもよらない人物であることは間違いない。
もうひとつの衝撃は、間違いなく志波の過去だ。