20歳のソウル (幻冬舎文庫) [ 中井由梨子 ]
評価:3
■ヒトコト感想
実際に市立船橋の吹奏楽部に所属した人物を描いた作品なのだろう。簡単に言うと、吹奏楽部に熱中する大義が20歳でガンで亡くなるという物語だ。まさに青春全開という感じだ。吹奏楽部内部での部員同士のゴタゴタは、全国大会を目指すほどレベルの高い吹奏楽部だからこそ起こることだ。野球部のためのオリジナル応援歌を考えた大義。それがのちの伝説の「市船SOUL」らしい。
高校を卒業してからも大学で音楽は続けているのだが、ある日大義の体調が悪くなり…。そこからは何度も手術を受けながら必死に作曲を行う大義の姿が描かれている。市立船橋の吹奏楽部にとっては大義は特別な人物というような描かれ方をしている。実話を元にしているだけに、大きな事件があるわけではないのだが…。
■ストーリー
浅野大義(神尾楓珠)は市立船橋高校吹奏楽部に所属する男の子。担当はトロンボーン。活発で優しく、そして真っすぐな大義は、いつも周囲を明るく照らし、そして大義自身も部員たちに支えられ、青春を謳歌していた。なにより特別な存在である顧問・高橋健一先生(佐藤浩市)に大きな影響を受け、心身共に成長していった。大義は、市船・野球部のために、オリジナル応援曲の作曲に挑戦。作曲の難しさに葛藤しながらも 高橋先生からの叱咤激励や親友・佐伯斗真(佐野晶哉)の助け、母・桂子(尾野真千子)の応援もあり「市船soul」が誕生する。
そして、いざ試合で演奏されるとたちまち得点を呼ぶ〝神応援曲″と呼ばれる様になる。高校を卒業した大義は、高橋先生の様な教師を志し音楽大学へ進学、夢に向かってキャンパスライフを過ごしていた。そんなある日、大義の身体を異変が襲う。診察の結果、大義の身体は癌に侵されていた。
■感想
吹奏楽でトロンボーンを担当する大義。顧問の高橋先生や仲間の斗真との関係が描かれている。強豪の吹奏楽部は演奏を合わせるためにいろいろなことをする。市船では部員全員でソーラン節を踊るらしい。
そんな、ごく普通の強豪の吹奏楽部の日常を描きながら、野球部の応援のために大義が作る応援歌がポイントとなる。短いフレーズだが確かに印象に残る。のちに、伝説の応援歌として「市船SOUL」は有名となる。全国を目指す吹奏楽部だからこそ、部員同士の軋轢や熱量の高さを感じることができるパートだ。
高校を卒業し大学でも音楽をやり続ける大義。ここでは吹奏楽に入るという描写はない。それでも、音楽や恋人との学生生活など充実した雰囲気を醸し出している。そんなリア充な生活も、大義がガンと判明したことで一気に変化していく。
この若さでガンを宣告されるのはかなりつらい。ただ、医者の前向きな発言もあってか、大義はガンと戦うことを決意する。肺がんの手術をして、そのあとは転移が見つかった脳腫瘍の手術をする。若いだけにガン細胞が活発に動いていたということなのだろう。
この手の物語の定番的な流れとなる。大義はまたもガンが転移しており、余命わずかと医者から宣告されてしまう。死が目の前に迫った状態の若者の姿を見るのはつらい。なぜ自分だけ?という思いになるのは当然だろう。健康体であれば思う存分作曲ができるはずなのだが…。
大義は市船の吹奏楽部のために演奏用の曲を作曲しようと頑張っている。残りの命を最後まで燃やすように必死に作曲を続ける。大義が死んだあとに、本作のように映画化されるというのは相当なインパクトがあったのだろう。
実話だけに変な脚色ができないので、大きな事件が起きるわけではない。