淵の王 


 2024.3.3      謎の黒い影が最後につきまとう 【淵の王】


                     
淵の王[ 舞城王太郎 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
舞城王太郎作品。今までの作品はわけのわからないという印象が強かった。3作の中編からなる本作。ホラーの要素が強いのだが最初の2作は終盤までほとんどホラーの要素がでてこなかった。3人の人物を中心とした物語となっている。特に印象的なのは中島さおりの物語だ。友達がいつの間にかマインドコントロールされている下りは恐ろしい。

女友達が妊娠し子供を産んで、その子供と一人ぐらしの家に入り浸る。いつのまにか良いように食い物にされている。世間でよくあるパターンなのかもしれない。友達はいつの間にかそうされており、電話で苦しさを告白するのだが…。会って話をするとなんでもない、自分の意志でやっていると答える。この感覚は恐ろしい。

■ストーリー
中島さおりは“影”に憑依された幼児に襲いかかられる。堀江果歩のマンガには、描いた覚えがない黒髪の女が現れる。中村悟堂が移り住んだ西暁町の家の屋根裏部屋には、闇の穴が黒々と開いている。「俺は君を食べるし、今も食べてるよ」。真っ暗坊主――それはあなたの眼前にもきっと現れる。日常を浸食する魔、そして狂気。作家・舞城王太郎の集大成、恐ろしくて、切ない、傑作ホラー長篇。

■感想
それぞれの作品の序盤ではホラーの要素はあまりでてこない。特に最初の2作品は、最後の最後に黒い影が登場し恐ろしい結末となる。堀江の物語は、堀江果歩の青春物語といえなくもない。テニスに熱心になっていた女が突然漫画家を目指す。

それだけでもぶっ飛んでいるが、そこから数か月でプロとしてデビューしてしまう。堀江の青春というか漫画家になってからの人生においても、多少の困難や苦しさはあるにしても幸せに満ちているように思える。それがラスト間近で突然変貌する。

ラストの中村の物語は強烈だ。序盤からホラー要素が満点となる。知り合いの家に行くと知らない裸のひげ面の男が出てきた。屋根裏に一人の女がいて、呪いをかけていた。かなり複雑な状況だ。不倫相手の奥さんが相手の女に恨みを晴らすために、呪いをかける。

その方法が、相手の産んだ子供の死体を犬に食べさせ、その犬を自分が食べるという方法だ。なんともおぞましい呪いだ。虫を別の虫に食べさせ、その虫をまた別の少し大きな虫に食べさせる。そして最終的には…。

黒い影というのがすべての短編でキーワードとなる。これが結局何なのかは不明なまま物語は終わっている。強烈なインパクトがあるのは、このわけのわからない世界観だ。福井弁という特殊な方言で登場人物が会話するのはいつもの舞城王太郎作品どおりだ。

ただ、福井弁と共にホラーの要素が加わると、怖さが倍増するような気がした。これまでの舞城作品と比べると非常に読みやすく、青春物語の要素があるので感情移入しやすいかもしれない。

読む人を選ぶ作品であることは間違いない。



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