エムブリヲ奇譚 


 2024.6.30      極度に方向音痴な男と従者の物語 【エムブリヲ奇譚】


                     
胚胎奇譚 エムブリヲ奇譚【電子書籍】[ 乙一 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
和泉蝋庵と耳彦の不思議な体験を描いた連作短編集。和泉蝋庵は歩くとすぐに道に迷ってしまう旅作家。その従者として耳彦が蝋庵と共に旅をして不思議な体験をする。表題作でもある「エムブリヲ奇譚」は、エムブリヲという母親のおなかの中にいる状態の胎児を指す言葉のようだ。エムブリヲを手にして、すぐに死ぬかと思いきやまるでペットのように生き続ける。その後、母親の体に戻して人間として生まれてくる。

なんだか想像を絶する奇妙な世界だ。そのほか、旅先で耳彦が経験する出来事は妙に残酷なものが多い。特に「地獄」は強烈な気持ち悪さがある。奇怪なだけでなくグロテスクさが加わると、とてつもないインパクトがある。

■ストーリー
社寺参詣や湯治のため庶民は諸国を旅するようになった。旅人たちは各地の案内をする道中記を手に名所旧跡を訪ね歩く。『道中旅鏡』の作者・和泉蝋庵はどんな本でも紹介されていない土地を求め、風光明媚な温泉や古刹の噂を聞いては旅をしていた。しかし実際にそれらがあった試しはない。その理由は蝋庵の迷い癖にある。仲間とともに辿りつく場所は、極楽のごとき温泉地かこの世の地獄か。江戸――のような時代を舞台に話題の作家・山白朝子が放つ、奇妙な怪談連作。

■感想
流れとしては蝋庵が旅に出る際に、荷物持ちとして耳彦がついていく流れだ。賃金はもらえるが耳彦は蝋庵と旅をしたくない。その理由としては、蝋庵が常に道に迷うからだ。この蝋庵の道に迷う癖は、幼いころからのことでそれを描いたエピソードもある。

道に迷うということは、本来であれば誰も入れないような土蔵にもいつの間にか入っているというような形となる。土蔵に監禁された女の元にどこから入ってきたのかわからない幼い子供がいた。それが後の蝋庵ということになる。

「地獄」は強烈なインパクトがある。蝋庵とはぐれた耳彦は、謎の山賊家族に捕らえられ、穴に落とされてしまう。実はこの穴は食料貯蔵庫のような存在で、食料がなくなると、穴からひとりを取り出して食料としていた。

序盤ではその事実がわからないまま、どのようにして脱出するかだけを考える。その仕組みが分かった時には…。山賊家族には小さな女の子がいる。この女のこの最後の行動がなんとも強烈だ。穴に生きたまま貯蔵されている耳彦たちの食料も、人の肉ということなのだろう。

「ラピスラズリ幻想」は印象的だ。青いラピスラズリの石を持つと記憶を残したまま生まれ変わることができる。ある老婆から石を受け取った女は…。人は誰もが記憶を残して二度目の人生を生きることを考えたことがあるのだろう。

これから何が起こるかわかる。死ぬはずだった父親は生き残り、その影響で前とは別の人物と結婚したりもする。何度も人生を繰り返すことで、幼少期から神童のようなことをするのを止め、普通の子供のふりをしたりもする。何度も人生を繰り返すというのは楽しそうだ。

乙一らしい作品ばかりだ。



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