ダリア 新潮文庫/辻仁成
評価:2.5
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■ヒトコト感想
ダリアという男が家にやってきた。連作短編集である本作。青年ダリアがやってきたことで、祖父、母親、父親、娘、息子それぞれに変化が訪れる。それぞれの視点で描かれる本作。最初に祖父の視点での物語がスタートする。半ばボケかけている祖父の視点では、まだ物語は良くわからない状態となる。
そこから人妻がダリアと出会い、制御されていく様が強烈に描かれている。ダリアはいつの間にか家族の心を虜にし、家に住み着くまでになる。父親がかすかに危機感を覚えてはいるのだが…。短編それぞれを読むだけでは全容は理解できない。各短編を読むことで、ダリアの影響力の強さと家族を支配する流れが描かれている。ただ、ダリアの目的は最後までわからない。
■ストーリー
その男が家にやってきた日から、妻のスープの味が濃くなった。野蛮さとまがまがしさを瞳に宿す、褐色の肌の青年ダリア。彼はすれ違いの一瞬で、平凡な人妻の心を奪い、冒涜の愉楽へと誘い出す。やがてその矛先は家族にも向かっていくが…。果たしてダリアとは何者か。美と悪徳が明滅する官能的な筆致から、もうひとつの現実世界への扉を開く衝撃作。作家生活20周年記念作品。
■感想
謎の男ダリア。その存在は謎に包まれている。最初に登場したのは、妻とダリアの出会いで動きがある。謎の魅力的な青年ダリア。惹かれてはいけない存在とわかっていたとしても、ダリアの魅力からあらがうことができない。
家族がいる身でありながら、ダリアに惹かれていく。単純な禁断の不倫ものかと思ったが、次の短編で夫目線での物語が描かれている。ダリアが突然家にやってきた。普通ならば警戒するはずが、ダリアの人間的魅力により父親もいつのまにかダリアとの会話が楽しくなってくる。
ダリアとは何者なのか。癖のある娘や反抗的な息子も、ダリアの言うことは聞いたりもする。唯一、祖父だけがダリアのことを怪しい存在だと気づいている。ボケ始めた祖父はこの世のものではない存在を見たりもする。
強烈なインパクトがあるのは、ダリアがあまりにも魅力的で、その存在から抗うことができないという部分だ。息子については、他者を暴行した結果、殺人犯になる可能性すらあった。そこから、ダリアとの悪魔の取引をした結果、なんでもない日常をとり戻すことができる。
ダリアが家に住むことになる。父親以外はみな賛成している。特に母親に関しては、既成事実のようになっている。家の主導権を握られる恐れのある父親は、ダリアを排除しようとするのだが…。実はダリアが両性具有であり、父親もダリアの魅力のとりこになっていく。
ラスト近くになり突然、ダリアが両性具有だという設定が登場した。それまでの記述から母親とダリアの関係というのをイメージしていたのだが、実は何もなかったのかもしれない。
ダリアの存在がポイントとなる作品だ。