騙し絵の牙


 2023.8.25    出版社内部の権力争い【騙し絵の牙】

                     
騙し絵の牙 [ 大泉洋 ]
評価:3.5

■ヒトコト感想
出版社を舞台とした物語。「薫風社」は文芸春秋などをイメージしているのだろうか。出版不況の中で文学誌だけは聖域として手をつけられない。カルチャー雑誌のトリニティの編集長となった速水が改革のため動き出す。コンゲームに近い流れだ。速水が計画していることがどこまで最初に想定していたのか。

すべてが速水の思う通りにいくのだが、最後の最後に新人編集者である高野に速水は出し抜かれる。出版業界の実情というか内部事情がわかるのが良い。有望な新人作家の取り合いや話題作りのためのヤラセまで。社内の権力争いでの追い落とし。まるでドラマの「半沢直樹」のような流れがあり、権力者をやりこめる展開が良い。最後の大逆転もよかった。

■ストーリー
大手出版社「薫風社」に激震走る! かねてからの出版不況に加えて創業一族の社長が急逝、次期社長を巡って権力争いが勃発。専務・東松(佐藤浩市)が進める大改革で、雑誌は次々と廃刊のピンチに。会社のお荷物雑誌「トリニティ」の変わり者編集長・速水(大泉洋)も、無理難題を押し付けられて窮地に立たされる…が、この一見頼りない男、実は笑顔の裏にとんでもない“牙"を秘めていた!嘘、裏切り、リーク、告発。クセモノ揃いの上層部・作家・同僚たちの陰謀が渦巻く中、新人編集者・高野(松岡茉優)を巻き込んだ速水の生き残りを賭けた“大逆転"の奇策とは! ?

■感想
出版不況から雑誌の廃刊がつづいている。大手出版社の薫風社も状況は変わらない。変わり者の編集者である速水がカルチャー雑誌のトリニティの新編集長となり改革を続ける。新人編集者の高野が主人公なのだが…。

出版業界のタブーを描いているのだろう。文学誌はどれだけ業績が悪くても手を付けられることはない。いわゆる聖域扱いとされている。金食い虫の元大物作家、編集長は高飛車。まさに出版社の中で売り上げは悪くとも、立場が強い部署という感じだ。

高野は最初は文芸の部署にいたのだが、営業部への異動を命じられたのを契機に速水とトリニティをやることになる。今まで通りであればいずれトリニティは廃刊される。それを防ぐためにドラスティックな改革を行う速水。

編集者から反発を受けるのだが、それに負けない勢いがある。速水のとる手段は異例なのかもしれないが、それがうまくいくと周りはついてくる。本作で強烈なのは新人作家の取り合いの部分だ。小説薫風で落選させた作家をトリニティが引き抜いたのだが…。その才能を認められ小説薫風が再び奪いかえすのだが…。

すべては速水が描いたシナリオのとおりに進むのが良い。厄介な文芸部の幹部は、速水の計画により幹部を辞任することになる。社長の肝入りの計画すらも、速水は裏で動き自分の計画を実現するための裏工作をしていた。結局は速水がすべてのうまみを吸い尽くしたかと思いきや…。

ラストで高野に大逆転されるのが良い。速水のお株を奪うような大逆転劇。本作の流れがそのまま出版業界にあてはめられるとは思わない。特に新人作家の替え玉としてメディアに登場した俳優の卵はその後の人生に支障をきたすのでは?と思ってしまった。

出版業界のゴタゴタがわかる物語だ。



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