2023.3.16 息子のために生贄を用意する母親 【ビッグ・ドライバー】
ビッグ・ドライバー 文春文庫/スティーヴンキング
評価:3
スティーヴン・キングおすすめランキング
■ヒトコト感想
スティーヴン・キングの中編。車が故障し立ち往生したテス。通りがかった男に助けてもらうはずが暴行されてしまう。テスの復讐譚が描かれている。衝撃的なのは、テスが暴行されたのは運が悪かったのではなく、最初から仕組まれていたということだ。講演会の主催者が、異常者である息子の相手をさせるためにテスを呼び寄せた。
すべてを理解したテスの怒りと行動は理解できる。もう一つの中編は、幸せな家庭生活を送っていたダーシーだが、実は夫が猟奇殺人者だった。何十年も気づかなかったダーシー。夫の異常性を警察に通報するのか…。成人し会社を起こした息子や、婚約者と結婚式の相談をしている娘のことを考え悩み苦しむ妻の状況が詳細に描かれている。
■ストーリー
小さな町での講演会に出た帰り、テスは山道で暴漢に拉致された。暴行の末に殺害されかかるも、何とか生還を果たしたテスは、この傷を癒すには復讐しかないと決意し…表題作と、夫が殺人鬼であったと知った女の恐怖の日々を濃密に描く「素晴らしき結婚生活」を収録。圧倒的筆力で容赦ない恐怖を描き切った最新作品集。
■感想
テスが暴漢に出会ったのは不運でしかないと思っていた。故障した車を修理してくれる優しいトラックの運転手のはずが…。空き家に連れ込まれレイプされてしまう。その場でテスはほぼ死を覚悟したのだが、男はテスが死んだと思い外にでてしまう。
ここからすぐにはテスの復讐は始まらない。まずは生きていたことへの感謝と男と再会しないために逃げることを考える。逃げた後も住所を知られているので、部屋に男がやってこないかと恐れ続ける。強烈なテスの恐怖感が描かれている。
テスは小説家なため、自分がレイプされたことを通報するのをためらう。犯人への憎さはあるが、自分の状況が面白おかしくスキャンダルになることを恐れている。その後のテスの選択はすさまじい。警察での犯人への復讐が難しいのであれば、自分から動き出す。
それもテスを講演会として呼んだ主催者が怪しいと考え始める。テスの異常な復讐心もすさまじいが、息子のために生贄となる女を探し続ける母親もすさまじい。すべてを理解したテスの復讐はすさまじい迫力だ。
ダーシーの中編もすさまじい。数十年連れ添った夫が実は猟奇殺人者だったと知るダーシー。大昔に警察をバカにして連続殺人を犯していた有名人。逮捕されずにいた真犯人は実は夫だった。そのことに気づいたダーシーはどのような選択をするのか。
普通に考えれば夫の本性を知った瞬間に一緒に暮らすことは難しいだろう。息子や娘のことを考え、ダーシーはある決断をする。その後、老刑事がやってきて、ダーシーから夫のことをチラホラと聞こうとする。ラストでどのような結末になるのかドキドキした。
どちらも良質でミステリアスな中編だ。
おしらせ
感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
pakusaou*yahoo.co.jp