梅雨物語 


 2023.12.27      気持ち悪くて恐ろしい中編集 【梅雨物語】

                     
梅雨物語 [ 貴志祐介 ]
評価:2.5
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■ヒトコト感想
特殊な中編が3編収録された本作。どれも奇妙で後味は良いものではない。「皐月闇」は、元教師で俳人の作田が教え子の依頼で一つ一つの俳句を解釈していく物語だ。五七五の文字のられつでどこまで推理を展開するのか。俳句を書いた本人が自殺したということで、俳句から何が起こったのかを解釈する。

作田が俳句から、教え子が沖縄旅行で恋人とのいざこざがあったと解釈する。素人目にはそこまで解釈を広げる意味がよくわからない。ただそこには大きな間違いがあった。作田が認知症の気があることや、何かがおかしいという雰囲気は伝わってきた。その他の短編もなんだか気持ち悪いものやキノコ関係の意味不明な展開など普通のミステリーではない物語ばかりだ。

■ストーリー
命を絶った青年が残したという一冊の句集。元教師の俳人・作田慮男は教え子の依頼で一つ一つの句を解釈していくのだが、やがて、そこに隠された恐るべき秘密が浮かび上がっていく。(「皐月闇」)・巨大な遊廓で、奇妙な花魁たちと遊ぶ夢を見る男、木下美武。高名な修験者によれば、その夢に隠された謎を解かなければ命が危ないという。そして、夢の中の遊廓の様子もだんだんとおどろおどろしくなっていき……。(「ぼくとう奇譚」)

・朝、起床した杉平進也が目にしたのは、広い庭を埋め尽くす色とりどりの見知らぬキノコだった。輪を描き群生するキノコは、刈り取っても次の日には再生し、杉平家を埋め尽くしていく。キノコの生え方にある規則性を見いだした杉平は、この事態に何者かの意図を感じ取るのだが……。(「くさびら」)想像を絶する恐怖と緻密な謎解きが読者を圧倒する三編を収録した、貴志祐介真骨頂の中編集。

■感想
「ぼくとう奇譚」は、奇妙な黒い喋の夢を見る木下の物語だ。有名な修験者によって安全なお札を用意してもらったはずなのだが…。奇妙な夢は花魁たちと遊ぶ夢へと変化していく。夢の中の遊郭での様子が次第に変わっていく。

木下は呪われており、選択を間違えると呪い殺されることになる。花魁たちの中でひとりを選ぶタイミングとなり、そこで黒い喋を避けて選ばなければならない。選択肢の正解は一つしかない。花魁の名前や着ている衣装からなんらかを想像するのだが…。

「くさびら」は、杉平が朝起きると目の前には広い庭を埋め尽くす、色とりどりの見知らぬキノコが一面に生えていた。キノコの生え方の特徴を捉え、そこからミステリーな展開へと変化していくのだが…。キノコは幻覚を引き起こす。

途中でキノコの形が飛行機の翼に似ており、空力の観点から浮かび上がるなんてのが語られたりもしている。強烈なインパクトはないのだが、やはり普通の作品ではない流れとなっている。キノコを扱うのが不気味な雰囲気となっている。

3編がすべて不気味な作品だ。オーソドックスなミステリーとしての展開というよりは、あえてミステリーではない恐ろしさを表現したいのだと感じられた。俳句を元にして推理を展開するのは面白い。それを単純な犯人捜しとするのではなく、俳句を解釈する本人が認知症であり、何かしら認識の祖語があるというのがポイントになるのだろう。

特殊な知識がかなり詰まっている。ぼくとう奇譚については、ラストは気持ち悪い虫の話となる。頭の中で想像すると恐ろしくなる。

特殊なミステリーであることは間違いない。



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