あつあつを召し上がれ [ 小川糸 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
料理をテーマとした7つの短編集。どれも料理と料理を食べる人々との関係性が詳しく描かれている。ほっこりとする作品ばかりだ。特に思い出の食事はしんみりする。余命わずかな祖父のために思い出のかき氷を買いに走る少女。恋人との最後の別れの旅行で食べた食事など、ほろ苦い思い出もある。
食事の内容も、いかにもおいしそうな物もあれば、なんてことない物もある。どの短編もさらりと読める。それぞれシチュエーションが異なる物語となるので、自分に感情移入できる物語があれば間違いなく心に来るだろう。なんてことない食事であっても、一緒に食べる人によって、その食事の意味合いがかわってくる。全体としてほっこりとした物語であることは間違いない。
■ストーリー
うまい物を食うと、本当に子供みたいな顔になるね。恋人との最後の食事、今は亡き母にならったみそ汁のつくり方……。ほろ苦くて温かな、忘れられない食卓をめぐる七つの物語。この味を忘れることは、決してないだろう――。10年以上つきあった恋人との、能登へのお別れ旅行で味わった最高の朝食。幼い頃に、今は亡き母から伝授された、おいしいおみそ汁のつくり方。何年か前に家族みんなで並んでやっとありついた、天然氷でつくった富士山みたいなかき氷……。ときにはほろ苦く、ときには甘く優しく、身も心も温めてくれる、食卓をめぐる7つの感動の物語。
■感想
「親父のぶたばら飯」は、食事に強いこだわりのある父親との思い出を語りながら、子供と母親が食事をする物語だ。ぶたばら飯の描写が最高においしそうに思えてくる。父親の食べ物のこだわりが強く、一品ごとに食べる店を変えたりもする。
外食にこだわりがあるので、その子供たちからすると常においしいものが食べられるという思いがある。逆に自分が好みの食べ物を外食で食べることはできない。良し悪しがあるのだろうが、それでも父親との思い出の外食があるのは幸せなような気がした。
「さよなら松茸」は、寂しくなる物語だ。恋人との別れを描いた作品。最後に自分の誕生日に恋人が旅行に連れて行ってくれた。ただ、別れることが決まっている旅行というのは楽しめないのは確かだ。そんなときに、旅館で出た食事。
彼氏のやさしさなのか。客観的にみると、それは残酷な仕打ちでしかないように思えてしまう。旅行中も楽しくないだろう。もしかしたら、彼氏と復縁できるかも?という思いがあったのだろうか。作中では主人公にまだ未練があるように感じられた。
「季節はずれのきりたんぽ」は、亡くなった父親が愛したきりたんぽ鍋を娘と母親が作って食べる物語だ。こだわり続けたきりたんぽ。父親の実家の味というのは厄介でしかない。思い出補正で味を再現するのはほぼ不可能でありながら、父親からは文句を言われる。
病死した父親を看取った後に、母と娘で愚痴を込めながらのきりたんぽ鍋。最後の最後にこのきりたんぽ鍋がまずいというのがポイントなのかもしれない。雑巾を絞ったようなまずいスープ。その衝撃の理由としては…。
どれも印象的な短編だ。