秋雨物語 


 2023.7.5      寝ている間に体が瞬間移動する恐怖 【秋雨物語】

                     
秋雨物語/貴志祐介
評価:3
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■ヒトコト感想
貴志祐介のホラー短編集。4つの恐ろしい短編が収録されている。オカルトの展開があり、最終的にはオカルト現象の秘密が科学的に明かされるかと思いきや…。そのままオカルトのまま後味が悪く終わる作品もある。特に印象深いのは「フーグ」だ。寝ている間に体が瞬間移動してしまう。小説家の苦悩が、そのまま作品として残されている。

奇妙に思った編集者が、残された作品を読む怖さがすさまじい。怪しげな占い師の助言により本当に瞬間移動がおさまったかに思えたのだが…。瞬間移動の対策をしたことで、最悪な結末となるのがなんとも後味が悪い。その他の短編も中盤までの恐怖感がすさまじい。オチに何か科学的な結末を求めてしまうのだが…。そうはならない。

■ストーリー
失踪した作家・青山黎明が遺した原稿。それは彼を長年悩ませる謎の転移現象の記録だった。転移に抵抗する青山だったが、更なる悪夢に引きずり込まれていく(「フーグ」)。ある呪いを背負った青年の生き地獄、この世のものとは思えないある絶唱の記録など、至高のホラー4編による絶望の連作集。『黒い家』『天使の囀り』『悪の教典』……いくつもの傑作を生み出した鬼才・貴志祐介が10年以上にわたり描き続けた新シリーズが遂にベールを脱ぐ。

■感想
「フーグ」は強烈なインパクトがある。作家の青山が失踪した。PCに残された原稿から編集者が青山の行方を追う。序盤から青山の不思議な瞬間移動についての状況が、青山の小説という形で描かれている。瞬間移動する場所は決まっていない。

物理的にあり得ない場所へ飛ぶが、同じ質量の枯れ葉などの物質が青山の身体の代わりにベッドの上にある。ある時は砂丘に飛び、ベッドの上には大量の砂がある。寝ている間というのが恐ろしい。ある程度の対策をし効果がでたのだが…。部屋から外に飛べないようにしたことで、部屋内のある場所に瞬間移動してしまうのは恐ろしすぎる。

「白鳥の歌」は、オチに至るまでが恐ろしい。無名の歌手の奇跡の歌声。ソプラノ歌手が2つの歌声をもつ。その幻の歌声が収録されたレコードを聴いた男は、その幻の歌手の調査を依頼するのだが…。なぜ人間としてありえない、同時に二つの声を出すことができたのか。

調査結果が判明した際に、あなたのために結果は知らない方がいい、と言われる。このあたりが最高に恐ろしい。どれだけ恐ろしい秘密が隠されているのか。その恐怖のピークはそこで終わり。前振りでの思わせぶりがあまりに強すぎた感じだ。

「こっくりさん」は、闇のこっくりさんという新しいパターンが登場してくる。生贄を用意すると、残りのメンバーは幸せになるアドバイスが聞ける。こっくりさんが示す情報が位置情報であったり本を示すISBN番号であったり、スマホで調べることが前提となった情報がこっくりさんから示されるのがなんとも現代的だ。

こっくりさんはスマホをもってるの?なんて疑問がわいてしまう。古くからある恐ろしいこっくりさんの雰囲気はないが、ラストの展開は衝撃的すぎる。

がっつりとしたホラー短編集だ。



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