アカシアの花のさきだすころ Acacia / 辻仁成 /
評価:3
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■ヒトコト感想
表題作と別の短編が収録された本作。表題作は元覆面レスラーの元に転がりこんできた孤独な少年タクロウとレスラーの交流を描く物語。元プロレスラーが主人公ということで、少し特殊な雰囲気がある。息子を自殺で亡くしており、そのことをきっかけとして妻と別れてしまった元レスラー。
タクロウは父親に捨てられたかと思いきや、近くに父親は住んでおり、タクロウに会いたがっていた。元レスラーがタクロウにプロレスを教える下りや、元レスラーが自分の生い立ちを語る場面は思わず引き込まれてしまう。さびれた団地に住む元覆面レスラー。なぜこんなキャラを主人公にしたのかはよくわからないが、元レスラーとして体の大きいぬぼっとした男の不器用な立ち回りが頭に浮かんできた。
■ストーリー
さびれた団地の用心棒を務める、元覆面レスラーの大魔神。ある日、彼の家に転がり込んだ孤独な少年タクロウ。息子を失った男と、親の愛情を知らない少年が出会い、プロレスを教えることで、不器用に心を通わせていく。孤独なふたりの再生と希望を描く表題作ほか一篇を収録。
■感想
息子を失った男と親の愛情を知らない子供の交流の物語だ。実は本作はアントニオ猪木主演で映画化されているようだ。そのことを後で知ったのだが、読んでいるイメージはまったく猪木ではなかった。もっとずんぐりむっくりとして丸っこい体のおじさんであり、顔は丸顔でひげ面を想像していた。
元覆面レスラーとしてアントニオ猪木が親の愛情を知らない子供と交流するイメージはない。どちらかというと、子供に対しても厳しく接するようなイメージだ。
元レスラーは息子を自殺で亡くしていた。それが子供にプロレスを教えたことが原因とは書かれていない。その後に奥さんと別れていることと、自分のせいで息子が死んだという思いがある。自分が息子にしてやれなかったことをタクロウにしているのだろう。
親の愛情を知らない子供に、改めて愛情をこめて接するのは難しい。実の子供でないこと。ぶっきらぼうにプロレスを教えることが、相手にどう伝わるのか。自分の子供が自殺した原因が自分にあると思うこと自体、ものすごくつらいことだ。
奥さんとのなれそめは強烈なインパクトがある。レスラーとしてアメリカで修業時代を過ごしているときにアメリカで弁護士をしている奥さんと出会う。それも離婚調停中の奥さんと出会い、その後親密になる。このレスラーにどんな魅力があったのか。
アメリカで弁護士をするようなアカデミックな女性が肉体だけで金を稼ぐレスラーに魅力を感じるのはないものねだりなのだろうか。自分の世界には存在しなかった人物ということで新鮮さが勝ったのだろうか。
もうひとつの短編も印象深い。