2023.10.14 何の助けにもならない国連軍【アイダよ、何処へ?】
アイダよ、何処へ? [ ヤスナ・ジュリチッチ ]
評価:3
■ヒトコト感想
ボスニアの紛争を描いた作品。戦争の悲惨さというか国連の無力さが強烈に描かれている。本来なら国連は強い立場にいるはずが、セルビア軍に何もかも言いなりになっている。物語の冒頭にスレプレニスァの市長がセルビア軍に攻撃されていることを国連に抗議している。それに対して国連の将軍は、セルビア軍にこれ以上攻撃を続けると空爆すると通告した、というだけ。
結局は町は攻撃され市長は囚われ射殺されてしまう。その後、市民が国連の基地に逃げ込んでも、セルビア軍が武装して入ってきて市民を移送する。結局は町の男たちは皆殺しにされてしまう。平和な日本では無抵抗な市民を殺すことはないだろうと思っていたのだが、民族紛争は甘くない。
■ストーリー
1992年、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ紛争が泥沼化するなか、東部ボスニアの町スレブレニツァは、国連によって攻撃してはならない町に指定されていた。だが、セルビア人勢力のスルプスカ共和国軍が、国連の警告を無視し侵攻を開始。1995年7月11日、セルビア人勢力の侵攻によって陥落したスレブレニツァの2万人以上にもおよぶ市民が、町の外れにあるポトチャリの国連施設に押し寄せた。女性、子供、高齢者、負傷者で密な状態となる中、国連の通訳として働いているアイダは、夫と2人の息子を探していた。
そんな中、国連保護軍のフランケン少佐の通訳となったアイダは、ホール内の市民にスルプスカ軍の司令官との交渉役を募る呼びかけを行う。そしてアイダ含む国連と民間の代表陣で、敵軍への交渉へと挑む事になるのだが…。
■感想
セルビア軍が安全地帯のはずのスレブレニツァに攻め込む。本来守るはずの国連が何もせず傍観しているだけ。結局、町はセルビア軍に支配され、兵士たちは森に逃げ去る。残された市民は国連の基地に逃げ込むしかない。
基地に入りきらない大量の市民は基地の周りに集まるしかない。国連の通訳をしているアイダはそのつてを使って、自分の家族だけを国連の基地に入れることに成功するのだが…。セルビア軍は容赦ない。兵士は皆殺しし、一般市民でも最初から殺すつもりでいたということだ。
スレプレニツァの市民たちはセルビア軍に殺されることを覚悟しているように思えた。セルビア軍は市民たちを安全に別の町へ移送すると国連に言うのだが…。結局は交渉の場でそう言っているだけで、市民たちをどこかにバスで連れて行ってしまう。
国連の無力さが強烈に描かれている。セルビア軍は国連をバカにしており、本来は非武装のはずの国連の基地内部にも武装した兵士を送り込んでくる。セルビア軍は最初から国連が何もできないとバカにしているような感じだ。
これが民族紛争なのだろう。一方からの見方でしかないのだが、血も涙もない。男と女は別れてバスに乗せられ、男たちは一か所に集められ射殺される。アイダは必死に家族を助けようとするが、結局息子と夫はバスに乗せられることになる。
この場面でも、国連の将軍は無事に町へと送り届ける、と口で言うだけ。すでに国連の大佐は何もかも放棄している。本部に助けを求めても何もしてもらえない。自分たちの安全を確保するだけで精一杯なのだろう。
これこそ戦争の真実なのだろう。
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