N 


 2022.10.2      読む順番を決めるチャンスは1度だけ 【N】

                     
N [ 道尾秀介 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
本の構成が奇抜だ。全六章の短編集ではあるが、章がひとつおきに逆さまになっている。つまりページを開くと上下が逆さまになっている。文章も逆から読まなければならない。最初ページを開いたときに混乱した。タイトルの「N」というのは、上下逆さまに読んでもNということで良いのだろう。ひとつおきに読んで、三章読むと、次は逆方向で上下を逆さまにして残りの三章を読む。それぞれの短編に共通した登場人物が登場したりと連作な雰囲気がある。

ペット探偵や時系列的な変化などもある。それぞれの短編については、特別な印象はないのだが、ペット探偵の相棒の犬が吉岡という名前で登場し、のちの短編でその理由が明かされたりもする。

■ストーリー
全六章。読む順番で、世界が変わる。あなた自身がつくる720通りの物語。すべての始まりは何だったのか。結末はいったいどこにあるのか。「魔法の鼻を持つ犬」とともに教え子の秘密を探る理科教師。「死んでくれない?」鳥がしゃべった言葉の謎を解く高校生。定年を迎えた英語教師だけが知る、少女を殺害した真犯人。殺した恋人の遺体を消し去ってくれた、正体不明の侵入者。ターミナルケアを通じて、生まれて初めて奇跡を見た看護師。殺人事件の真実を掴むべく、ペット探偵を尾行する女性刑事。道尾秀介が「一冊の本」の概念を変える。

■感想
本作は短編を読む順序によって、どこまで印象が変わるだろうか。。作者は様々なパターンを想像するのかもしれないが…。ミステリー的な流れのある作品もある。「死んでくれない?」としゃべる鳥を持ち主に返す。野球少年が鳥の持ち主が死ぬのではないかと心配するのだが…。

謎の人物が何人か意味ありげに登場するのだが、のちのペット探偵であったりもする。わりと結末が想像できる作品ではあるのだが、他の短編を読んでいれば、確かに違った印象をもつのかもしれない。読む順番は確かに重要だ。。

ほとんどの人が「落ちない魔球」から正しい天地で読み始め、最後までいくと天地をひっくりかえして「名のない毒液と花」の順で読むのだろう。冒頭の短編で登場した人物が、実はその後の短編でも登場してくる。この構成は確かに考えさせられるものがある。

特にペット探偵の相棒が、吉岡という犬のことであったのにまずひとつ驚き。その後、吉岡という人間がコンビを組んでいたが、事故死したために犬に吉岡という名前を付けたというのがわかる。関係する人物たちのリンクを楽しむ作品でもある。

どの流れで読むかで、すでに登場人物が死んでいるとか、のちに死んだとかがわかる。意味ありげな存在感についても短編を読む順番によって印象が変わってくる。ただ、注意しなければならないのは、最初に読む順番を選んでしまうと、再読したとしても最初と同様の衝撃を受けることはできない。

短編の内容をすべて頭の中から消し去ることができれば可能なのだが…。定年を迎えた英語教師が関連する外国の少女の話関連だけは少し他の短編と趣が異なるように感じられた。

それぞれ読む順番を変えることで印象はかわるが、そのチャンスは1回しかない。



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