5A73 [ 詠坂雄二 ]
評価:3
■ヒトコト感想
日本に読み方も意味もない漢字があるということに驚いた。幽霊文字というらしい。本来ならその幽霊文字である「暃」を作品のタイトルとしたかったようだが、出版社的には読めないタイトルはNGということで、幽霊文字のJISコードをタイトルとしたようだ。連続して自殺が発生し、その死体のどれにも幽霊文字である「暃」がタトゥーシールで張られていた。
自殺者それぞれがどのような経緯でタトゥーシールを張ることになったのかが描かれている。それと並行して不審な自殺死体を調査する二人の刑事の物語も描かれている。自殺者たちが幽霊文字に惹かれていく過程や、そこからどのようにオチにつながるのか。ラストの作者が登場するくだりは面白い。
■ストーリー
関連性不明の不審死の共通項は身体に残された「暃」の字。それは、存在しないにも拘わらず、パソコン等では表示されるJISコード「5A73」の文字、幽霊文字だった。刑事たちが、事件の手掛かりを探る中、新たな死者が……。この文字は一体何なんだ?
■感想
幽霊文字については、不思議な怖さがある。「暃」という見た目の部分もそうだが、読み方も意味もない漢字というのはいわくがありそうで恐ろしくなる。そんな幽霊文字が自殺者の体に刻まれている。何か意味がありそうだと感じ、警察が調べだす流れもよい。
ひとりふたりでなく、5人もの自殺者がでる。幽霊文字の成り立ちが調べられると、なんとなくオカルト的な要素はなくなっていく。歴史的に過去の資料で使われていた漢字をピックアップした際に、誤記などで生まれた可能性もあるとのこと。国際コードであるJISコードの変更は大変ということで放置されているようだ。
幽霊文字の顛末としては、自殺者が次々とその情報を他者に引き継いでいるとわかる。警察の調査は結局のところ途中で止められてしまう。幹部からのストップがかかった理由としては特に描かれていない。ラストに続く流れとして、一人の男が自殺者たちを調べ続けていたというのがわかる。
この人物が警察に事情聴取されるのだが…。この手の作品では、この一人の男がすべての黒幕だったというオチなのだが…。本作では、ラストで作者である詠坂雄二が登場してくる。
まさかの展開だ。少しオカルトの要素はあるにせよ、読み方も意味もない漢字をテーマとした小説を描いた理由が説明されている。そもそもそんな漢字をあえて使う意味はない。タイトルからは決して読み取れない内容となっている。ただ、導入部の面白さや幽霊文字の奇妙さに比べると、ラストの流れは普通過ぎると感じた。
幽霊文字を思わずパソコンで変換してみたりもした。5A73と打って、F5キーを押すとJISコード変換が行われるようだ。
幽霊文字というのは非常に興味深い。