罪人の選択 


 2021.1.8      奇妙な雰囲気の短編集 【罪人の選択】

                     
罪人の選択/貴志祐介
評価:2.5
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■ヒトコト感想
奇妙な短編集だ。作者のデビュー前に書かれた作品もあり、新鮮な雰囲気を感じることができる。「呪文」は地球ではないどこかでの奇妙な風習の裏には悲しい真実がある物語だ。印象深いのは表題作でもある「罪人の選択」と「赤い雨」だ。一升瓶と缶詰。一方には猛毒が入っている。どちらを選択するまでが緊張感あふれた展開で描かれている。

赤い雨につていは、作者が得意なSFであり、地球が新種の生物により滅ぼされる直前の世界が描かれている。どれも普通ではない雰囲気がある。作者独特の雰囲気というか、常人では考えつかないようなストーリーとなっている。特に罪人の選択については、最後におまけ的なオチまでついているのが良い。

■ストーリー
夜の記憶」―『十三番目の人格―ISOLA―』『黒い家』の本格デビュー前に書かれた貴重な一編。貴志祐介ワールドの原点!「呪文」―『新世界より』の刊行後ほどなくいて発表された短編。惑星「まほろば」で何かが起きている…。「罪人の選択」―「罪人」の前に出されたのは、一升瓶と缶詰。一方には猛毒が入っている。果たして正解は?「赤い雨」―新参生物のチミドロによって、地球は赤く蹂躙された。スラム出身の瑞樹はRAINの治療法を探る。

■感想
「罪人の選択」は強烈だ。罪を咎められた男は目の前に焼酎が入った一升瓶と缶詰をだされる。どちらかには猛毒が入っている。どちらかを選んで口に入れなければ殺される状況となると、男はどちらを選ぶのか。助かるためのヒントを与えられるが、それでも決定的な確信を得ることができない。

一升瓶であれば毒が入れやすい。缶詰は自家製ということで何らかの仕掛けがしやすい。男はどちらを選んだのか。そして、時代は変わり同じ選択を迫られる男。この二段階の構成が物語を不思議な印象にしている。

過去の男がどちらを選び死んだのかが、その後の別の男の生死に関係してくる。同じ選択を迫られると、過去の出来事をヒントにして毒を避けようとする。読者に対しての挑戦のような雰囲気すらある。どちらを選べば生き残れるのか。

2回目で答えが異なるというのがポイントなのだろう。なぜ、同じものを使用しているのに、前回と今回で生き残る選択が異なるのか。その理由も語られており、ラストのちょっとしたオマケに繋がっているのもよい。

「赤い雨」は作者得意の雰囲気のSFだ。チミドロという微生物に支配された世界。人間はチミドロにより蹂躙され死んでいく。微生物だが捕食者がおらず、単体で子孫を増やすことができる。チミドロを排除する手段がない人間たちは、チミドロから隔離された安全な場所で生きることを選択する。

チミドロをどのようにして排除するかを研究するため、チミドロに感染し死亡した人間を研究材料にする必要がある。隔離されたドームで生活する者は、ドームの外側のスラムで研究材料を探しに向かうのだが…。

作者らしい奇妙な短編集だ。



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