山桜


 2020.11.15      出戻り女が生きづらい時代【山桜】

                     
山桜
評価:3

■ヒトコト感想
江戸後期の侍の家の長女・野江を描いた作品。江戸時代の侍の長女は、今と比べてとんでもなく生きづらいことが伝わってきた。夫に先立たれ、意にそぐわない家に嫁ぐ。磯村家は野江に厳しい。嫁ぐということはその家の召使になることに近い。夫の言いなりとなり姑からは厳しく命令される。そんな野江だが、結婚する可能性のあった手塚と再会する。

この手塚が最高にかっこよい。寡黙ではあるが農民のことを何より考え、圧政に苦しむ農民たちを助けるためにある行動にでる。悪い奴は悪く描かれ、良い人物は良く描かれている。わかりやすい展開ではあるのだが、出戻りの女性は非常に辛い立場であるというのは伝わってきた。女性に自由のない時代なのだろう。

■ストーリー
北の小国 海坂藩に生きた男と女江戸後期、吟味役百二十石・浦井家の長女 野江は、最初の夫に先立たれ、勧められるままに磯村家に嫁いだが、家風になじめずつらい日々を送っていた。叔母の墓参りに帰り道、山桜の下で一人の武士に出会う。山桜を手折ってくれたその男は、かつて野江を妻に望んで果たせなかった手塚弥一郎であった。

この年も飢饉が続き、重い年貢で農民たちの生活は困窮していた。その窮状を目の当たりにした弥一郎はある決断をする…。それは野江の運命までも変えるものであった。

■感想
女性には生きづらい時代だ。出戻りはかなり肩身の狭い思いをするのだろう。自分が家にいると、長男に嫁が来ない可能性すらある。結婚するということは、相手の家に入り、一緒に生活する。今と結婚感の違いは明らかで、結婚すると相手の家の言いなりにならなければならない。

実家に帰ることですら嫌味を言われる。もはやちょっとした召使と変わらないような扱いだ。嫁いだ先の姑と関係が悪化した場合、そこは地獄でしかない。野江の辛い状況がこれでもかと描かれている。

実は磯村家に嫁ぐ前に、野江に縁談の話があった。その相手が手塚だった。イケメンで剣の達人。野江がもし手塚と添い遂げていたら、姑との関係も含めて野江は幸せになれたのだろう。ひとりものとしてひたすら剣の腕を磨き続ける手塚。

下の者たちからは慕われている寡黙な男。圧政に苦しむ農民たちを助けたい思いが強い手塚は明らかに主人公的な描かれ方をしている。ほとんどセリフがないのだが、表情だけですべてを語っている。手塚が私腹を肥やす上司を殺害するくだりは、手塚の表情でその覚悟を伺い知ることができる。

手塚がしでかしたことは強烈だが、農民のことを考えての行動と、周りの者たちもみな同じ思いでいたことから、処罰が保留されている。一方で野江は磯村家から離縁されてしまう。この状態での野江の肩身の狭さはすさまじいのだろう。

出戻りの女がいつまでも実家にいると、長男の嫁が来づらい。さらには小姑となる可能性すらある。今では考えられないほど女性が生きづらい時代なのだろう。女がひとりで生活することの大変さはすさまじいのだろう。

寡黙な手塚はかっこよすぎる。



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