罪の轍 


 2020.3.23      実際に起きた誘拐事件をモデルとした衝撃作 【罪の轍】

                     
罪の轍 [ 奥田 英朗 ]
評価:4
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■ヒトコト感想
実際に起きた誘拐事件をモデルにしているのだろうが、とんでもなく濃い物語だ。誘拐犯がどのような人生を送ってきたのか。場あたり的だが幼少期のトラウマから感情を喪失したことで、警察の取り調べから逃れ続ける。一方警察は誘拐犯を取り逃がしたことから世間の批判の的となる。犯人側の人間関係と警察内部の事情がとんでもなく濃密だ。

犯人は相手に詰め寄られると感情をなくす。そのため、警察の取り調べでは確たる証拠を得ることができない。警察の捜査は99の無駄なことをすることで1の真実を手に入れる。まさにそれがそのまま表現されている作品だ。犯人側がどのような状態になれば完オチするのか。終盤でもまだ犯人がオチる気配を感じることができないため、ページをめくる手を止められない作品だ。

■ストーリー
刑事たちの執念の捜査×容疑者の壮絶な孤独――。犯罪小説の最高峰、ここに誕生! 東京オリンピックを翌年に控えた昭和38年。浅草で男児誘拐事件が発生し、日本中を恐怖と怒りの渦に叩き込んだ。事件を担当する捜査一課の落合昌夫は、子供達から「莫迦」と呼ばれる北国訛りの男の噂を聞く――。世間から置き去りにされた人間の孤独を、緊迫感あふれる描写と圧倒的リアリティで描く社会派ミステリの真髄。

■感想
刑事たちの執念と犯人のつかみどころのない行動と思考の数々。本作では1人称が変わり警察側と犯人とに変化する。普通ならば犯人側の目線では、読者に対して自分が犯人だとわかるような記述があるが、本作ではそれがない。

つまり自分自身も犯人と自覚していないということだ。そのため、読者からすると犯人は別に存在するのでは?と思わずにはいられない。刑事がどれだけ犯人を問い詰めても、まるで事件とは関係内容なそぶりをする。ウソ発見器にかけても、兆候は何もでない。読者は一瞬混乱することだろう。

犯人の生い立ちも語られている。どのような子供時代を過ごしてきたのか。幼少期に義理の父親から虐待を受けたため脳に障害があり、解離性の人格障害となる。障害をもつ人物が犯人だった場合、まるで二重人格のように自分の犯罪をはっきりとは認識できないのだろう。

そんな犯人を追い詰めようと必死に外堀を埋める刑事たち。どれだけ無駄な作業になるかわからないことでも、念のためすべてを網羅的に調査する。ひとつの見逃しが決定的な穴にならないようにする。

刑事の捜査の困難さと、世間の目の厳しさが伝わってくる。組織の長となる者は常にマスコミから攻撃される。世間の話題になる誘拐事件。現実に起きた事件をモデルにしているだけに、その臨場感はすさまじい。犯人が子供を誘拐したという証明のため、片方の靴を置いたことから、あらゆる想定を膨らます。

指紋ひとつとるにしてもかなり広範囲に調査をする。犯人の足取りをたどるために、ひたすら証拠集めに奔走する。刑事たちの強烈なインパクトのある捜査については、ページをめくる手を止めることができない。

昭和を舞台にし、実際の誘拐事件をモデルとした濃密な作品だ。



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