2018.6.19 夜の街で生きる人びと 【地下の鳩】
地下の鳩 (文春文庫) [ 西加奈子 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
大阪の繁華街を舞台にした物語。二つの中編から成り立つ本作。「地下の鳩」は、キャバレーで働く吉田とスナックのチーママであるみさをの物語だ。そして、オカマバーを営むミミィの物語である「タイムカプセル」がある。二つの物語にはつながりがある。夜の世界独特の雰囲気と、そこで発生するトラブル。
それぞれがポリシーをもって生きている。特に吉田は、日々をぼんやりと過ごしているようで、女に対しての強いこだわりがある。みさおと吉田それぞれの視点で物語が描かれているため、その時のその場でのお互いの思いがはっきりとわかる。夜の街で生活する者たちの強烈な日常が描かれている。一般人とは違った日常であることは間違いない。
■ストーリー
大阪最大の繁華街、ミナミのキャバレーで働く「吉田」は、素人臭さの残るスナックのチーママ「みさを」に出会い、惹かれていく(「地下の鳩」)。オカマバーを営む「ミミィ」はミナミの人々に慕われている。そのミミィがある夜、客に殴り掛かる(「タイムカプセル」)。賑やかな大阪を描いて人気の著者が、街の「夜の顔」に挑んだ異色作。
■感想
「地下の鳩」は、ミナミの町で働く吉田とみさをの物語だ。吉田は女についてはそれほど執着がない。性的な意味で割り切った関係をもつ女はいる。そんな吉田がひょんなことからみさおと知り合うことになり、そこから二人の関係はプラトニックな関係が続くことになる。
ふたりの関係は奇妙だ。お互いがお互いを必要としているが、しばらくの間はまったく肉体関係がない。みさおも吉田も相手に対して執着はないのだが、吉田の前に付き合っていた女が現れると、とたんに嫉妬心がわいてくるみさお。まさにリアルな女の本性なのだろう。
「タイムカプセル」では、幼いころにイジメにあっていたオカマのミミィがオカマバーを始め、そこでトラブルに巻き込まれる。オカマとして目覚めたタイミングの話や、オカマバーでの営業時のふるまいなどが描かれている。
客の雰囲気を素早く読み取り、男女のグループであれば、誰が誰を狙っているかをよみとり、その雰囲気に合わせた会話をする。基本的には笑わせてなんぼ、盛り上げてなんぼの世界なので、自虐的なネタを活用し、場を盛り上げることを第一に考えている。
二つの物語は交錯している。吉田やみさおと夜の街で交錯するミミィ。「地下の鳩」のラストでミミィの凶行について描かれており、「タイムカプセル」では、その理由が語られることになる。ミミィが常連の男に攻撃的になった理由は、過去のイジメ体験がある。
大人になってから、イジメ体験がフラッシュバックし、そこから体の不調を訴える者もいる。吉田から見たミミィとみさおから見たミミィ。そして、ミミィから見たふたりなど、それぞれの思いの違いというのは、独特なものを感じずにはいられない。
ミナミでの強烈なインパクトのある物語だ。
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