太陽と乙女 


 2018.6.3      作者の知られざる一面 【太陽と乙女】

                     
太陽と乙女 [ 森見 登美彦 ]
評価:2.5
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■ヒトコト感想
森見登美彦が、デビューから現在まで描いたエッセイなどが収録された作品。作者の作品同様にちょっと奇妙な日常が描かれている。エッセイは作者の素の部分がわかる。京大の大学院に通いながら小説の賞を受賞し、そこからデビューへつなぐ。ただ、デビューしてからは、決して順調ではなく、働きながらの作家生活に限界がきて病んだりもする。

一時期、まったく新作が発表されなかった理由だったのだろう。エッセイ自体はもともと面白い文章を書く作者なので問題ない。ただ、最も興味深かったのは、作者がつけていた日記だ。リアルに賞を受賞し作家としてデビューするあたりの臨場感はすさまじい。周りの反応もまた面白い。おそらく嘘偽りのない状況が日記に描かれているのだろう。

■ストーリー
デビューから14年、全エッセイを網羅した決定版! 登美彦氏はかくもぐるぐるし続けてきた! 影響を受けた本・映画から、京都や奈良のお気に入りスポット、まさかの富士登山体験談、小説の創作裏話まで、大ボリュームの全90篇。台湾の雑誌で連載された「空転小説家」や、門外不出( !?)の秘蔵日記を公開した特別書下ろしも収録。寝る前のお供にも最適な、ファン必携の一冊。

■感想
独特な作品を生み出し続ける森見登美彦。作風で言えば万城目学も同じようなものだが、よりマニアックで鬱屈している。そんな作者が描いたエッセイをまとめたのが本作だ。京都のイメージがあるのだが、実は奈良出身だということ。

京都大学院時代に小説の賞を受賞し、そこからデビューするが、体調を崩し奈良にひきこもるなど、作品からは伺い知れない部分がよくわかる。のんびりとした文体から、あまり俗世間に煩わされない性格かと思いきや、仕事と創作でパンクし精神的に病気になっていたらしい。

秀逸なのは、作者が素人時代に書いた日記だ。それは、院時代に賞を受賞する場面なのだが、強烈だ。まだ何者でもない寿司屋でバイトをしている学生が、小説の賞をとる。当然周りは騒がしくなる。その時の作者の喜びようも強烈に伝わってくる。

日記を作品として発表することに多少の負い目があるらしいが、一番自然でよい印象をもった。そのほかには、旅のエッセイもある。富士山に登ってみたり、あてのない旅をしてみたり、作者の性格と同様にのんびりとした旅であることは間違いない。

作者の小説はとんでもない妄想に包まれている。新作が発表されるたびにその妄想の濃さに驚かされている。そんな妄想全開の作者であっても、エッセイでは地に足のついた文章となっている。仕事をしながら小説を書くというハードな状況に耐え切れず精神的に病んでいる状況のエッセイもある。

タイトルがそのままずばり「スランプ」となっている。確かに、作者がスランプの時期の作品は、より妄想がパワーアップし、逆に意味がわからない状態となっている。

作者の知られざる一面を知れるのは良い。



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