深夜食堂


 2018.8.29      イケてない常連客たちが良い 【深夜食堂】

                     
映画 深夜食堂 特別版 [ 小林薫 ]
評価:3

■ヒトコト感想
深夜にマニアックなドラマとして放送されていた深夜食堂は見たことがある。大したオチはないが、ほのぼのとした人情味あふれるドラマであることは間違いない。それがまさか映画化されているとは思わなかった。ドラマ版と同じ雰囲気の4つのエピソードをつなげたような映画だ。マスターが人情にあふれているのはもちろんだが、深夜食堂に常連として通う客たちがすこぶる良い味をだしている。

何か問題のある客がやってきて、その客を中心としてエピソードが語られる。ただ、その客のことを他の常連たちは気にして噂話までする。ドラマ版で印象的だった、いつもお茶漬けを食べる三人のOLはほぼ出ずっぱりだ。食堂にひっそりと座り日本酒を飲んでいた男をドラマ版ではオダギリジョーが演じていたのだが、いつの間にか警察官となり復活していた。

■ストーリー
マスターの作る味と居心地の良さを求めて、夜な夜なにぎわうめしや。ある日、誰かが店に置き忘れた骨壺をめぐってマスターは思案顔。詮索好きな常連たちは骨壺をネタに、いつもの与太話に花を咲かせている。そんなめしやに、久しぶりに顔を出したたまこ。愛人を亡くしたばかりで新しいパトロンを物色中だったが、隣にいた年下の男と肌が合い・・・。

無銭飲食をしたことを機に、マスターの手伝いを兼ねて住み込みで働くことになったみちる。いつのまにかめしやに馴染むが、どこか事情を抱えたままで・・・。福島の被災地から来た謙三は夜な夜なめしやに現れては、常連のあけみに会いたいと騒いでは店の客と一悶着・・・。春夏秋冬、ちょっとワケありな客たちが現れては、マスターの作る懐かしい味に心の重荷を下ろし、胃袋を満たしては新しい明日への一歩を踏み出していく。

■感想
本作のポイントは間違いなくマスターの作る素朴な料理だろう。とろろご飯を頼むと鍋でコメを炊き、それを食べることになる。すこぶるうまそうだ。とろろと土鍋ご飯だけだが、これ以上ないほど魅力的な食べ物に見えてくる。

それ以外にはタコさんウィンナーや下に卵焼きが引かれたナポリタンなど、どこにでもあるようでない素朴な料理だ。狭い裏路地にひっそりとたたずむ深夜食堂。常連たちは世間で言うところのイケてる人種ではない。どこか負け組臭を漂わせている者たちが、お互い慰めあってるようにも思えてくる。

印象深いのは無銭飲食をした女のエピソードだ。明らかに訳ありな女だが、料理の腕がよい。深夜食堂で住み込みで働くことになり、その料理の腕を周りに認められると…。訳ありなようだが、その真相がわからないまま、周りが受け入れているのがよい。

そして、最後にはちゃんと未来があり幸せに突き進んでいるのがよい。オダギリジョー演じる警察官は、とぼけたようで重要な役割を演じている。警察官役としてしっかりとしたスパイスを作品の中で振りまいているのがよい。

どのエピソードも特別なものではない。ただ、そんな平凡な出来事が、ちょっとうらぶれた者たちが集う深夜食堂で展開される。マスターが寡黙で多くは語らないが、お節介で、ぶっきらぼうだが、包み込むようなやさしさがある。周りの常連客も、ダメ人間っぽいのだがやさしさに満ちている。

心に傷を負った者はマスターが作る心温まる料理にほっこりし、そして前にすすむことになる。全てハッピーエンドとなるわけではない。あきらめやみじめさを感じる場合もある。それでも、最後には前にすすんでいるのがよい。

最初は映画化に違和感をおぼえたが、最後までしっかりと楽しむことができた。



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