シンドローム 上 


 2019.2.11      原発事故後をリアルに再現 【シンドローム 上】

                     
シンドローム 上/真山仁
評価:3.5
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■ヒトコト感想
東日本大震災と東電を描いた作品。かなり脚色はされているにせよ、当時の状況に鷲津が実在した場合、どのような行動をとるかが描かれている。関東の電力を一手に引き受ける首都電力。日本の半国営企業を買収しようと考える鷲津。一度はあきらめかけたとき、大震災が起こる。このあたり、地震が起きてからの原子力発電所内部の描写は強烈だ。

現場のことを無視して規則にのっとったことしか言わない本店のお偉いさんたち。必死でメルトダウンを抑えようと奮闘する現場の作業員たち。上巻ではそれら激しい震災の状況が語られている。メインはメルトダウンではなく、その後の買収であるのは明らかだが、原発の事故は外せない重要な要素なのだろう。

■ストーリー
電力事業ほど儲かるビジネスはない―。国から特別待遇を与えられ、「絶対に損をしない」収益構造を持つ電力業界に狙いを定めた鷲津の前に立ちはだかるのは、日本経済構造の暗部に蠢く権力。それでも、総本山「首都電力」に買収を仕掛けようとした矢先の2011年3月。東北を未曾有の地震、津波、原発事故が襲う。まさに国家存亡の危機。ハゲタカはどう動くか?

■感想
ハゲタカと呼ばれた男が日本の電力会社を買収する。東日本大震災での原発事故で、東電は国有化されると騒がれていた。一時は株価が強烈に下落したのだが…。実際に起こった出来事をベースに、もし鷲津ならばどのような行動をとるかが描かれている。廃炉の処理や多額の賠償金を背負わされた電力会社を鷲津が買収しようとする。

そこにいたるまでには各種の根回しが必要となる。あらゆる情報を手に入れ、そこから分析し、時には相手を脅すような真似をしてでも狙った獲物は逃さない男だ。

上巻では、東日本大震災が起こる様がリアルに描かれている。原子力発電所に津波が押し寄せ電源がなくなる恐怖。現場は必死にメルトダウンを防ごうとするのだが、本店のお偉いさんたちは現場を知らず余計な指示ばかりを飛ばす。事故調査委員会が開かれる際には、この責任がどこにあるかが詳細に調べられる。

まさに現実と同様のことが本作で語られている。政府がミスしたために、事故はより大きくなったのか。それともどのような行動をとっていたとしてもメルトダウンを防ぐことはできなかったのか。

原発事故のリアルさ。多額の負債を抱えた電力会社を救うためにはどうすべきか。鷲頭が電力会社を買い取ろうとするが、そこには有象無象たちの高い壁がそびえたっている。下巻ではそれらに対して鷲津がどのように対抗し、打開策を打ち出すのか。

電力会社を二つに分割し、電力供給業務を行う会社だけを買い取ろうとしたり。現実でも出された案がそのまま本作の材料となっている。本作はフィクションであるので、現実と違った結末を期待してしまう。

原発事故発生時のリアルさはすさまじい。



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