シーソーモンスター 


 2019.12.16      妻は元凄腕諜報員 【シーソーモンスター】

                     
シーソーモンスター (単行本) [ 伊坂 幸太郎 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
「シーソーモンスター」と「スピンモンスター」というふたつの中編が収録された本作。シーソーモンスターは、夫と妻それぞれの目線で物語が語られ、妻の素性を知らない状態での面白さがある。夫から見れば、妻はか弱い女性だが、実は妻は引退したが昔は国の諜報員だった。夫にバレずに元諜報員としての能力を発揮する。

正体を隠した正義の味方的な流れかもしれない。スピンモンスターはAIに支配された未来の物語となっている。AIはどこまで人間の生活に介入するのか。AIがその気になれば世論を操作することもたやすい。間違った情報をさも正しい情報のように操作することもできる。AIに支配されていると気づくことなく操られているのは恐ろしすぎる。

■ストーリー
我が家の嫁姑の争いは、米ソ冷戦よりも恐ろしい。バブルに浮かれる昭和の日本。一見、どこにでもある平凡な家庭の北山家だったが、ある日、嫁は姑の過去に大きな疑念を抱くようになり…。(「シーソーモンスター」)。ある日、僕は巻き込まれた。時空を超えた争いに―。舞台は2050年の日本。ある天才科学者が遺した手紙を握りしめ、彼の旧友と配達人が、見えない敵の暴走を阻止すべく奮闘する!(「スピンモンスター」)。

■感想
シーソーモンスターは正体を隠した妻と何も知らない無邪気な夫の交流が良い。何も知らず出会い、恋をして結婚するふたり。夫目線では妻は可愛い女性でしかない。しかし、最初の出会いから妻は諜報員としての活動をしながら夫と出会っていた。

妻側の思考は深い。常に海外のスパイや敵に囲まれていることを想定している。そのため、夫の状況にも敏感となる。夫が窮地に立たされても、元諜報員としての能力と昔のツテで夫を救い出している。定番だが、夫には偶然黒いゴミ袋をかぶせ、妻の大暴れする姿は見えないようになっている。

夫と共に、義理の母親が良い。妻からすると小うるさい姑だが、実は義理の母親にも秘密があった。義理の夫の事故死を殺人だと考える妻。そこで一番怪しい人物は誰かと言うと…。妻と姑の古典的ないさかいを逆手に取る内容となっている。何も知らない夫だけが幸せな日々を過ごしている。

あまりに能天気すぎるかもしれない。ラストまでの流れで幸せな家庭が続いているのが良い。作者の作品らしく、ちょっと理屈っぽいが、最後にハッピーエンドになるのが何よりも良いのだろう。

スピンモンスターはAIに支配された未来を描いている。車は完全な自動運転となり、人間の目にカメラが埋め込まれたりもする。AIの開発者が、AIの危険性に気づきAIを壊すプログラムを作成した。それを実行することを託された者たちは…。

AIにかかれば世間を騙すことなど一瞬でできてしまう。フェイクニュースを流したり、重大な犯罪者に仕立て上げられたり。気づいたらすべてがAIの思うがままとなる恐怖が描かれている。AIに支配されると、その先では人間には抗うことができないのだろうか。

ふたつの物語はかなり対象的だ。



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