2021.5.6 なんでも四捨五入で考える女 【サムのこと 猿に会う】
サムのこと 猿に会う [ 西加奈子 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
西加奈子の短編集。それぞれの短編は、個性的な二十代の男女が主人公となっている。「サムのこと」は、仲間であったサムが突然事故死し、その通夜に向かう4人の男女の会話を描いている。仲間の葬式に向かう悲しみよりも、個々のキャラクターの個性に圧倒されてしまう。どこか昔風であり、まっとうな社会人ではない雰囲気を醸し出している若者たちだ。
悲しみに暮れるのではなく、サムの思い出話に花を咲かす。サムの本名はサムとあだ名がつく名前ではない。サムの兄のあだ名を弟のサムが自分のことをサムと呼んでくれと言ったらしい。サムもちょっと特殊だが、周りの仲間たちもより特殊だ。なんとも言えないけだるい雰囲気の漂う短編だ。
■ストーリー
そぼ降る雨のなか、様々なことが定まらない二十代男女5人が、突然の死を迎えた仲間の通夜に向かうところから始まる『サムのこと』。二十代半ばの、少し端っこを生きている仲良し女子3人組が温泉旅行で、「あるもの」に辿り着くまでを描いた『猿に会う』。小説家志望の野球部の友人と、なぜか太宰治の生家を訪ねることになった高校生男子が、そのまま足を伸ばした竜飛岬で、静かに佇む女性に出会う『泣く女』。
人生の踊り場のようなふとした隙間に訪れる、「何かが動く」瞬間を捉えた初期3作を新たに編んだ短編集。
■感想
「猿に会う」は、二十代半ばの仲良し女子3人組の物語だ。3人のうち2人が処女で彼氏がいない。そんな3人の日常が妙に面白く描かれている。それぞれ目が細いとか耳が大きいとか出っ歯だというコンプレックスがある。有名な占い師に占ってもらうと、本人の性格とはまったく異なる、見た目だけの占いをされる。
そして、その占い師がのちに殺人事件の犯人としてテレビで報道されたりもする。ラストでは3人で日光へ旅行に行き、そこで「見ざる聞かざる言わざる」の前で写真をとる。お互いのコンプレックスを隠すような写真の姿が頭に思い浮かんでしまった。
女子3人という微妙な雰囲気を感じさせるのが良い。恋愛の悩みがメインとなりがちだが、そうではない。昔からの付き合いであり、今現在も彼氏ができない2人。対して1人だけ彼氏がいたことがあり、セックスも経験している。それぞれのキャラ付けが秀逸で、特になんでも四捨五入してしまう女子が最高だ。
何でも半ばを過ぎると、もう終わったも同然、というのがすばらしい考え方だ。すべてを四捨五入で考えるなんてのは普通ではない感覚だろう。こんなキャラを生み出せるのは作者だけだろう。
「泣く女」は男子高校生の2人が旅にでる物語だ。ひとりはモテモテ。もうひとりは太宰治に極端に傾倒している。太宰治について詳しければより楽しめるだろう。そうでなくても、この極端なふたりの旅というのは男子高校生らしく、常に腹が減っているようなイメージがある。
旅先で泣く女と出会うというのも何か意味深ではあるのだが…。バカな高校生男子ではなく、分別はあるのだが少し変わった男子2人が旅先で特殊な経験をする。強烈なインパクトはないのだが印象に残る作品だ。
個性的なキャラクターがおりなす短編集だ。
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