2021.11.10 吹奏楽部内部の複雑な人間関係【リズと青い鳥】
リズと青い鳥[ 種崎敦美 ]
評価:3
■ヒトコト感想
吹奏楽部の女子高生を描いた物語。何より絵柄がすばらしく、可愛らしい女子高生たちが、人間関係の悩みに苦しんでいる。主人公はオーボエ担当のみぞれと親友でありフルート担当の希美だ。みぞれは希美に常について回るような関係だ。希美にすすめられた「リズと青い鳥」を読み、自分たちの関係に近いと気づく。青い鳥を自由にすることが、それぞれを幸せにする。
リズの元にいるのはお互い楽しいのだが、それは青い鳥を大空にはばたかせることを阻止している。中盤までは、希美がみぞれに合わせることで、希美が自由にフルートを吹くことができない、という流れとなっている。それが実はみぞれにはとんでもない才能があり、みぞれが大空へはばたくことを妨害していたのは希美だった、という流れだ。
■ストーリー
あの子は青い鳥。広い空を自由に飛びまわることがあの子にとっての幸せ。だけど、私はひとり置いていかれるのが怖くて、あの子を鳥籠に閉じ込め、何も気づいていないふりをした。北宇治高等学校吹奏楽部でオーボエを担当する鎧塚みぞれと、フルートを担当する傘木希美。高校三年生、二人の最後のコンクール。その自由曲に選ばれた「リズと青い鳥」にはオーボエとフルートが掛け合うソロがあった。
「なんだかこの曲、わたしたちみたい」屈託もなくそう言ってソロを嬉しそうに吹く希美と、希美と過ごす日々に幸せを感じつつも終わりが近づくことを恐れるみぞれ。「親友」のはずの二人。しかし、オーボエとフルートのソロは上手くかみ合わず、距離を感じさせるものだった。
■感想
みぞれと希美の物語。みぞれは見るからに大人しく寡黙で、吹奏楽部の後輩たちが誘ってきたとしても断ったりする。本人に悪気はないのだろうが、人との関わり方がよくわかっていない感じだ。希美という明るい人気者が身近にいるので、常に希美の後をついていくという感じだ。
吹奏楽部でも希美は誰からも好かれ、周りに常に人がいる状態だ。希美とみぞれ、それぞれオーボエとフルートを演奏している。ふたりはお互いがソロとしてセッションするようなパートがある。ここでもふたりは一見、息のあった演奏をしているように見えている。
進学の話となり、希美は音大を目指すと口にする。すると、みぞれも同じく音大を目指すと言う。明らかにみぞれは主体性がない状態だ。周りの友達からも、みぞれの行動は奇異にうつる。そして、ソロパートでもみぞれを気にかけているために、希美が全力で吹けないと考えている。
リズと青い鳥の絵本の物語があいまに挟まれている。それとの対比としては、リズがみぞれで、青い鳥が希美のように描かれている。リズは青い鳥のことが好きなら、大空へ羽ばたかせてあげるために、青い鳥を自由にするべきだと考える。
実はみぞれの方が希美に合わせていた。みぞれのオーボエの才能はすさまじい。皆がみぞれの演奏に聞きほれてしまう。この流れで辛いのは希美だ。今まで自分が引っ張ってきていたと思っていたが、実はすべてみぞれが合わせていた。希美こそがリズとなっていた。
客観的に見ると、みぞれはひどい女のように見えてしまう。ただ、みぞれ自身に悪気がないというのがやっかいなところだ。青い鳥であるみぞれは羽ばたき希美の元を去っていく。なんとも複雑な物語だ。
絵柄が美しい。
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