落日 


 2020.8.22      最初の刷り込みで印象が大きく変わる 【落日】

                     
落日 [ 湊かなえ ]
評価:3
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■ヒトコト感想
地元で起きた一家殺害事件を中心として、脚本家の千尋と映画監督の香、そして事件の犯人である男との関係が描かれていく。序盤ではただ、映画のテーマを香から依頼され、千尋が事件を調査する物語かと想像していた。事件の詳細が判明してくると、香と事件の関係者が実は近い関係にいたことと、千尋の姉が事件の犯人と交流があったことが判明する。

生まれ故郷で起きた事件。なぜそこまで香が事件に執着するのかも判明してくる。強烈なのは、香や千尋が経験してきた人生の暗部だ。香は学生時代に交流のあった男子学生が自殺し、千尋は優秀な姉との比較に苦しんでいた。ラストでは事件の真相が語られているが、これは香が想像した結末なのだろう。

■ストーリー
新人脚本家の甲斐千尋は、新進気鋭の映画監督長谷部香から、新作の相談を受けた。『笹塚町一家殺害事件』引きこもりの男性が高校生の妹を自宅で刺殺後、放火して両親も死に至らしめた。15年前に起きた、判決も確定しているこの事件を手がけたいという。笹塚町は千尋の生まれ故郷だった。この事件を、香は何故撮りたいのか。千尋はどう向き合うのか。“真実”とは、“救い”とは、そして、“表現する”ということは。絶望の深淵を見た人々の祈りと再生の物語。

■感想
脚本家の千尋の元に映画監督の香から脚本の相談を受けた。引きこもりの男が妹を殺害し家に放火をした。衝撃的な事件の関係者に対して、香や千尋はつながりがあることが判明する。千尋の生まれ故郷で起きた事件。香が千尋に相談を持ちかけたのには理由があった。

事件の真相が判明するにつれ、事件の関係者とのつながりが見えてくるのは衝撃的だ。登場人物それぞれは、心に闇を抱えている。千尋は事故で死んだはずの姉が、生きてパリに留学していると思い込んでいる。そこには母親や家族との関係があったからだった。

香は自分の幼いころの経験と事件の関係者とのつながりを想像し、事件を調査する。香が幼いころにベランダに出された際に、隣の部屋でも同じように子供が外にだされていた。そして、ベランダの非常扉ごしに言葉のない交流をしたのが、実は事件の犯人である男の子ではないかと想像する。

男の妹にも人間的な問題があり、それらが語られている。本作に登場してくる人物の中には救いようのない特殊な性格の者が登場してくる。被害者である妹のひねくれた性格は、読んでいて嫌悪感をいだいてしまう。

ラストでは事件がどのような経緯で起こったかを香が想像する。千尋の姉が実は犯人の男と関係があった。さらには、姉が自転車で事故を起こしたきっかけのひとつが、犯人一家にあると思われる。後半になると怒涛のつながりが判明してくる。

そして、ラストの展開は香の想像がほとんどだとしても衝撃的だ。序盤の事件の印象と後半での印象は大きく異なる。それは、犯人の男の印象と妹の印象が作中で大きく変わっていくからだろう。世間で起きている事件のほとんどは、最初の刷り込みで善悪が判断されるのだろう。

現実にも本作のようなパターンがあるのかもしれない。



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